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出産に必要な健康保険の手続き「出産育児一時金」「出産手当金」について

最終更新日: 2021年09月30日

出産は赤ちゃんが産まれてくることに対する喜びと、仕事を続けながら出産・育児を迎えなければならない不安があります。また、医療機関に対してかかる費用や出産・育児期間中の収入に関する金銭的な不安もあるでしょう。

日本では安心して出産できるよう、出産・育児に関してさまざまなサポート制度があります。

ここでは、その中でも健康保険でサポートされている制度や給付金について見ていきましょう。

出産に対して支給される「出産育児一時金」について

妊婦さん

出産にあたっては、医療機関に対して出産費用がかかります。日本では、健康保険の制度で少しでも安心して出産できるよう、さまざまなサポートを行っています。

その制度の一つで、出産するほぼ全員に対して健康保険から支給される「出産育児一時金」制度があります。

ここでは、この出産育児一時金制度について見ていきます。

出産育児一時金とは

出産は一般的な病気とは異なるため、健康保険の被保険者であっても健康保険を利用することができません。

では、全額自己負担になるのかという、出産費用については加入している健康保険から補助的なお金が出ることになっており、それを「出産育児一時金」と言います。

出産育児一時金は、妊娠4ヵ月(85日)以上の被保険者及びその被扶養者が出産したときは1児につき42万円(産科医療補償制度の対象外となる出産の場合は40.4万円)が支給されます。

出産育児一時金の直接支払制度とは?

直接支払制度とは、出産育児一時金の額を上限として、加入している健康保険から医療機関に直接出産費用を支払う制度です。

従来は正常分娩の場合は健康保険が適用されないため、被保険者が分娩費用を直接医療機関の窓口で支払い、後日、加入している健康保険へ出産育児一時金を請求するという手続きを行っていました。しかし、この制度により、窓口での支払いが出産育児一時金を超えた金額だけですむようになりました。

被保険者はあらかじめ高額な出産費用を用意しなくても済むようになったのです。

直接支払制度を利用する場合には、出産を予定している医療機関等で手続きが必要ですので、医療機関等に確認してください。

なお、注意点ですが、医療機関等の中には直接支払制度を取り扱っていないところもありますので、事前に出産予定の医療機関等への確認が必要です。

出産費用に差額分が出た時の支給について

出産育児一時金の直接支払制度を利用している被保険者の場合、出産費用が42万円までかからなかった場合、申請することにより加入している健康保険から42万円に満たなかった金額の差額分を被保険者に支給します。

加入している健康保険から医療機関等への支給が終了すると被保険者に「支給決定通知書」が送付されてきます。

その通知が届く前に申請する場合には「出産育児一時金内払金支払依頼書」によって、その通知が届いた後に申請する場合には「出産育児一時金差額申請書」によって申請します。

直接支払い制度を利用しない場合の手続きについて

直接支払い制度を利用しない、また、利用することができない場合には、従来通り被保険者が医療機関に出産費用を支払ったうえで、加入している健康保険の「健康保険出産育児一時金支給申請書」に必要書類を添付して申請することになります。

なお、海外で出産した場合は直接支払制度の対象外となるため、従来通りの申請方法になります。

受取代理制度とは?直接支払制度との違い

直接支払制度を扱っていない小規模な分娩機関の場合、受取代理制度を利用することが出来ます。

受取代理制度は被保険者が受取代理用の申請書に医師の証明をもらって健康保険組合に事前申請をします。認可された病院が健康保険組合に出産育児一時金の請求を行い支払いを受けます。

この制度を利用することで、被保険者が医療機関等に支払う出産費用の負担を軽減することができます。

受取代理制度を利用する場合には、「出産育児一時金等支給申請書(受取代理用)」に必要事項を記入の上、加入している健康保険に申請してください。

この制度が利用可能な医療機関等は、厚生労働省へ届け出ている一部に限られますので、事前に出産予定の医療機関等に利用できるかどうか確認することに注意してください。

受取代理制度と直接支払制度との違い

  • 請求方法について、直接支払制度は請求手続きも医療機関等が代行してくれるが、受取代理制度は被保険者が請求するところ。
  • 申請時期について、直接支払制度は出産後の申請だが、受取代理制度は事前申請であるところ。
  • 出産費用が出産育児一時金に満たなかった場合の差額について、直接支払制度は本人が請求手続きを行うが、受取代理制度は本人の請求手続きが不要なところ。
直接支払制度 受取代理制度
健保への事前申請 不要 出産予定日の2ヶ月以内になったとき
分娩機関との代理契約締結 必要 不要
差額支払い請求 本人が請求 手続き不要

退職後の「出産育児一時金」について

マタニティ

健康保険に加入している間に出産した被保険者は出産育児一時金を受けることができますが、出産前に退職してしまった場合には出産育児一時金は支給されないのでしょうか?

ここでは、退職後でも出産育児一時金は支給されるのか、支給されるとするとどのような条件があるのかについて見ていきます。

退職後、国民健康保険に加入した場合

退職後に国民健康保険に加入した人がその後に出産した場合、分娩者自身が国民健康保険に加入していた場合は国民健康保険から出産育児一時金を受けることができます。

また、退職前に健康保険の被保険者であった期間が継続して1年以上あった人は、退職後6ヶ月以内に出産した場合には、退職後に健康保険料を納めていなくても以前に加入していた健康保険から出産育児一時金を受けることができます。

ただし、出産育児一時金は重複して受けることはできませんので、この場合にはどちらか一方を選択して申請することになります。

退職後、夫の健康保険の被保険者になった場合

退職後に夫の健康保険の被扶養者になった場合はどうなるでしょうか。

この場合も、要件を満たしていれば被扶養者として夫の健康保険から家族出産育児一時金を受けることができます。

夫の健康保険の被扶養者であった場合でも、退職前に健康保険の被保険者であった期間が継続して1年以上あり退職後6ヶ月以内に出産した場合には、以前に加入していた健康保険の出産育児一時金を受けることができます。

ただし、この場合も出産育児一時金と家族出産育児一時金を重複して受けることはできませんので、どちらか一方を選択して申請することになります。

退職後、任意継続被保険者になった場合

退職後に任意継続被保険者になった場合はどうでしょうか。

この場合でも、退職前に健康保険の被保険者であった期間が継続して1年以上(任意継続被保険者期間は除く)あり退職後6ヶ月以内に出産した場合には、以前に加入していた健康保険から出産育児一時金を受けることができます。

産休を取る際に申請する「出産手当金」について

出産手当金 支給申請書

健康保険の被保険者は、出産により会社を休むことで収入が減ってしまうため、出産後の生活に不安を感じる人が多くいます。

そのような人の不安を少しでも和らげ、出産後の生活を助けるために健康保険から受け取ることができる給付金があります。

ここからは、その給付金について見ていきます。

出産手当金とは?申請できる人は?

出産手当金とは、被保険者が出産のために休職し、その間に給与を得られなかった場合に、出産の日(出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日までの会社を休んだ日について支給される給付金になります。

出産手当金を申請できる人は、妊娠4ヶ月(85日)以降の出産や流産・死産などであること、健康保険に加入している被保険者であること、出産のために休業していることなどの条件を満たしている人になります。

出産手当金の手続きと書類について

出産手当金の手続きには「健康保険出産手当金支給申請書」と健康保険証の写しの添付が必要になります。

支給申請書には、被保険者本人、医療機関等、事業主がそれぞれ記入する欄がありますので、それらを記入して提出します。

出産前に退職した場合はどうなるのか?

出産手当金は、出産前に退職してしまった場合には受けることができないのでしょうか。

出産前に退職した場合でも、退職日等までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日等に実際に出産手当金の支給を受けられる状態であれば、資格喪失後も所定の期間の範囲内で引き続き出産手当金の支給を受けることができます。

出産手当金の給付期間と給付額について

産前産後休暇届

ここからは、出産手当金が実際に給付される期間、出産手当金の給付額の計算方法について見ていきます。

出産手当金が給付される期間は?

出産手当金は支給される期間が決まっており、出産日(出産日が予定日より後になった場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から、出産日の翌日以降56日までの範囲内で、会社を休んだために給与の支払いがなかった日について支給されます。

出産手当金の計算方法

1日あたりの支給額は、支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額の平均額を30日で割り、3分の2をかけた金額になります。

ただし、支給開始日以前の被保険者期間が12ヶ月に満たない場合は、上記の式の平均額は、下記A、Bのいずれか低い額を使用して計算します。

A:支給開始日以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
B:30万円(前年度9月30日における全被保険者の標準報酬月額を平均した額)

出産前・出産後の健康保険の手続き

費用計算する妊婦

これまでは、出産前後に受けることができる給付金について見てきましたが、ここからは、出産前後で手続きが必要になったり申請により簡単になる手続きについて見ていくことにします。

社会保険料(年金、健康保険料)免除の手続き

まず、出産前後の社会保険料(健康保険・厚生年金保険の保険料)についてですが、被保険者の産前産後休業期間中に事業主が日本年金機構に申し出ることにより、産前産後休業期間(産前42日(多胎妊娠の場合は98日)と産後56日のうち労務に従事しなかった期間)について、被保険者・事業主の両方の負担分が免除になります。

申し出については、産前産後休業取得者申出書を事業主が日本年金機構に提出することにより行います。

出産時に帝王切開等、高額医療がかかった際の「限度額適用認定証」手続きについて

出産時に帝王切開を行った場合、自然分娩ではないので通常の出産費用以外に手術費用もかかります。

手術費用は病院によって異なりますが、自然分娩の時よりもさらに費用がかかることになります。このような場合、定められた一定の金額を超えた分を後で払い戻してもらえる「高額療養費制度」があります。

この制度は一か月に一定金額以上の高額な医療費がかかったときに、その支払額が自己負担限度額を超えた金額を後から払い戻してくれるものです。

もしも、医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、あらかじめ限度額適用認定証の取得申請を行っておくことにより、医療機関窓口での支払いが自己負担限度額になります。

「切迫流産」「切迫早産」などの休業補償手続きについて

切迫流産、切迫早産など、妊娠・出産に伴って安静が必要で働くことができない場合には傷病手当金を受けることができます。

ただし、傷病手当金と出産手当金は重複して受けることはできません。出産手当金が優先され、すでに傷病手当金を受けている場合には、出産手当金の内払いとみなされます。

子どもの健康保険の申請

出産したら出生届や児童手当の申請のほかに、子どもの健康保険証を取得する申請を行う必要があります。

子どもは健康保険に加入することで医療費の自己負担が3割になります。また、住んでいる自治体に乳幼児医療費助成制度の申請を行うことにより、受給者証の提示で自己負担がなくなります。

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日本には女性に安心して出産してもらえるよう、出産・育児に関してさまざまなサポート制度があります。

今回は、その中でも社会保険でサポートされている制度や給付金についてみてきました。

このような出産に関する社会保険の手続きは、専門家である社会保険労務士に依頼することが可能です。当事者の収入にかかわることでもありますし、スムーズに手続きを進めるためにも専門家に任せることも検討されてみてはいかがでしょうか。

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