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イスノキの特徴を解説!葉につく「こぶ」は一体何者?

最終更新日: 2021年04月20日

イスノキは九州の南部を中心に自生している、マンサク科イスノキ属の常緑広葉樹です。

葉に「こぶ」をつけるのが特徴で「これっていったい何なのだろう・・・」と思った経験もあるのではないでしょうか?

この記事ではイスノキの特徴や意外な活用例、育て方を解説。気になる「こぶ」の正体にも迫ります。

イスノキの特徴

イスノキの葉についた虫こぶ

植物名 イスノキ
学名 Distylium racemosum
科名 / 属名 マンサク科 / イスノキ属
原産地 日本、東アジア
開花期 4月~5月
花の色
樹高 10~20m
特性 常緑性

イスノキは日本や東アジアを原産とする、マンサク科イスノキ属の常緑広葉樹です。

関西より西の地域で多く見られ、特に九州南部では森林を構成する樹木として広く生息しています。

成長スピードは遅いものの、大きいものだと20メートル級のサイズまで生長することも。頑丈な性質から木材としても用いられています。

木材として古くから使われてきた常緑広葉樹

イスノキはその丈夫さから、木材として古くから多くの人々に愛されてきました。

非常に硬いのが特徴で、その強度から床柱として用いられたり、家具や杖などに加工されたりもしています。

またイスノキは剣術で使う木刀や櫛の材料としても有名です。櫛の歯は折れると縁起が悪いとされていたため、イスノキの硬度はとても重宝していたようです。

葉につく「こぶ」の正体は「虫こぶ」

イスノキの葉についた虫こぶ
イスノキの葉についた虫こぶ

イスノキの葉についた「こぶ」のような物体。その正体は「虫こぶ」です。

虫こぶとは、虫が植物に産卵したり寄生したりする際の刺激によって、植物の細胞が異常に生長して奇形化したもののこと。イスノキにはアブラムシがつきやすく、樹木の中でも特に虫こぶが発生しやすいのです。

秋になるとこぶが乾燥して穴が開き、中から寄生していた虫が出て行きます。

イスノキの葉は楕円形をしており、強めの光沢と厚みがあるのが特徴です。しかし葉の特徴だけでイスノキを見分けるのは難しく、虫こぶがなければほかの木と見間違えてしまうでしょう。

赤い小さな花を枝先に咲かせる

イスノキの赤い花
イスノキの赤い花

イスノキは4月~5月ごろになると、赤い小さな花を枝先に咲かせます。

赤く見える部分は花粉が入っている葯(やく)で、雄しべの一部分です。イスノキの花は雌雄同株なのが特徴で、花の上部に両性花、下部に雌花をつけます。萼片(がくへん)の外側には褐色の毛も確認できるでしょう。

キウイのような卵型の実をつける

イスノキは花が終わった晩夏~秋ごろにかけて、キウイフルーツのような卵型の実をつけます。

実の大きさは直径1cmほどで、10月ごろになると2つに割れた実の中から種子が出てきます。

名前の由来と別名

「イスノキ」という名前の由来は、九州地方の漢字の読み方から。

イスノキと聞くと「椅子の木」と漢字変換したくなりますが、「椅子」ではなく「柞」と書きます。見慣れないこの漢字は「ははそ」と読み、クヌギなどの木を総称する意味合いがあります。

九州ではこの漢字を「ゆす」と読む習慣があり、そこから変化して「いす」となったようです。

別名は「ヒョンの木」

イスノキは「ヒョンの木」という別名も持っています。

イスノキにできる虫こぶは、かつて子どもたちに笛遊びに使われてきました。この笛を吹くと「ヒョー」と音が鳴ることから、「ヒョンの木」という別名がつけられたと言われています。

意外なところで大活躍!イスノキの活用事例を紹介

そろばん

イスノキはその丈夫な性質から、建築や家具などの木材として古くから重宝されてきました。家の柱やフローリングの床材、そろばんの珠など、実に幅広いシーンで活用されているのです。

また木材以外に染料や陶器表面の釉薬(うわぐすり)として使われることも。

意外な場面で使用される活用例を知れば、イスノキが身近なものに感じられてくるかもしれませんね。

イスノキ櫛や木刀の材料に

イスノキはその硬さから、櫛(くし)や木刀の材料として使用されてきました。

イスノキ櫛はかつて大奥や宮中で使われた歴史があり、高級櫛材として貴重な地位を確立しています。

またイスノキは木刀の材料として使用されることも。きめの細かな温かみのある色合いと、確かな硬さによる重厚感が高品質な木刀を形作ります。

染色の材料に

イスノキは染色の材料としても大活躍。

イスノキにできる虫こぶにはタンニンが含まれており、虫に対する防御反応を起こす際に生成されます。

このタンニンを使って色染めを行えば、雰囲気のあるグレーがかった色味に仕上がります。

燃やした灰は有田焼の釉薬に

イスノキの樹皮と葉を燃やした灰は、有田焼の釉薬(うわぐすり)にも使われてきました。この灰は「いすばい」と呼ばれ、釉薬を染め付ける媒材に活用されます。

イスノキは様々な姿に形を変えて、人々の生活に古くから寄り添ってきたのです。

イスノキの育て方

イスノキの葉

イスノキの育て方を紹介します。生長スピードの遅さや丈夫さから、九州地方などでは生垣としての人気も高いです。

育て方のポイントを押さえて、庭でイスノキを楽しんでみてはいかがでしょうか。

栽培環境

イスノキは日向を好む木ですが、耐陰性に優れているため日陰でも育つのが特徴です。

しかしただでさえ生長がスローペースなイスノキを日陰に植えてしまうと、大きく伸びるのが遅れてしまいます。なるべく日当たりの良い場所を選んで育てましょう。

また生長はゆるやかではありますが、比較的どのような土壌でも育ってくれるので、一般的によく使われる培養土などを使えば問題ありません。ただし根腐れを起こさないように、土の水はけは良くしておきましょう。

水やり

イスノキが根付いた後の水やりは、特に必要ありません。

よほど雨が降らない日が続くなどの状況ではケアが必要ですが、ほぼ自然の雨水に任せてしまって大丈夫です。土壌が乾燥しすぎた際に水を上げる程度で十分でしょう。

もちろん植え付けてから根が張るまでは、こまめな水やりが欠かせません。土の表面が乾燥したタイミングでたっぷりと水を与えましょう。

肥料

イスノキは生長がよいため、肥料を与える必要はありません。

植え付け

イスノキの植え付けは3〜6月、9月上旬〜10月が適期です。

耐暑性と耐寒性は高くなく、暖かい地方で自生する植物であるため、暑すぎても寒すぎても弱ってしまいます。

またイスノキを育てたい場合は時期だけではなく、植え付けの場所もしっかりと選んでおくのがおすすめです。

イスノキは生長に時間がかかるので、自宅の庭で育てる場合には植え替えを前提にせず、植える場所をあらかじめ決めておきましょう。

イスノキの剪定と増やし方

イスノキ

イスノキの剪定方法と増やし方を紹介します。

イスノキはゆるやかな生長スピードでありながらも、やがて枝葉が生い茂るほどに大きくなると剪定を必要とします。

剪定

イスノキは生長とともに形が崩れていくので剪定は必須です。

剪定が必要になったら、花が咲き終わった夏から秋ごろを選びましょう。バランス悪く伸びてしまった枝などはどんどん整えるのをおすすめします。

イスノキは丈夫なため、少々強めの剪定をしても弱ることはありません。剪定をして枝を間引くと風通しが良くなるので、害虫被害を防ぐことができます。

いくら害虫に強いとはいえ、害虫がつきやすい環境で放置するのはNGです。

挿し木

イスノキを増やしたい場合には「挿し木」を行いましょう。

枝をカットし、先端に3枚程度の葉を残して他は取り除きます。1~2時間水につけた後に、清潔な土に挿しましょう。

挿した後はたっぷりの水を与えて、半日陰で1ヶ月ほど管理します。

根が出やすく挿し木で増やすのはさほど難しくはないですが、気になる人や確実に根を生やしたい場合には、薬剤を使うのもひとつの手です。

また種をまいても比較的発芽率が高いので、あえて種まきで増やすという選択肢もよいでしょう。

虫こぶが印象的なイスノキを楽しもう

イスノキ

イスノキは虫こぶが印象的な常緑広葉樹です。葉や花を見ただけではなかなかイスノキと分かりづらいですが、虫こぶがついていたらイスノキだと判断してもよいかもしれません。

イスノキはポイントさえ押さえれば、ある程度放置しても順調に育ってくれる木です。手間をかけずに育てたい人にはぴったりの木なので、ぜひ検討してみましょう。

手間をかけずにガーデニングを楽しみたい方には「宿根草」の栽培もおすすめです。特別な手入れをしなくても毎年同じ時期に花を咲かせるので、庭に安定した彩りを与えてくれるでしょう。

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その姿が特徴的なイスノキ。虫こぶを意識して街路樹を観ていると、イスノキとの意外な出会いがあるかもしれませんね。