発明した新しい技術やアイデアを法的に守ってくれるのが特許です。特許は企業だけでなく個人でも取得できます。しかし特許の取り方は複雑で、いくつもの書類を揃えなければいけません。
この記事では、特許取得の方法や手続きの流れ、費用、弁理士に依頼するメリット・デメリットなど、特許申請について幅広く解説していきます。
特許とは?個人でも取得できる?
「特許」という言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。ここでは特許の役割や個人でも特許を取得できるのかについて説明します。
特許には自分の発明を守る役割がある
特許とは、自分が発明したアイデアや発明を、自分だけが独占的に使用できるようになる権利のことです。自分の発明についての特許権を取得すると、他人や企業はあなたの許可なくその発明を利用することができなくなります。
もしも特許を取得した発明が誰かに無許可で使われたら、使用停止や損害賠償の請求が可能です。また特許を取得していれば、その発明の利用・販売などを有償ライセンスという形で誰かに認めることもできるようになります。
個人でも取得することは可能
特許は法人が取得するイメージが強いですが、個人が発明した技術や商品に対しても特許を取得することはできます。
ただし、未成年者には特許を出願する資格はありません。未成年者が特許を取得したい場合は、法定代理人である親に手続きをしてもらいましょう。
個人で特許を申請(出願)する場合、①自分1人で手続きをする方法と②弁理士に申請を代行してもらう方法があります。各方法のメリット・デメリットは後ほど紹介します。
特許の申請(出願)から取得までの流れ
特許出願から特許取得が認められるまでの大まかな流れは、以下の通りです。
各ステップの詳細については、以降の項目でご紹介します。
特許庁は毎年、膨大な数の特許出願を受け付けているため、審査に入るまでの期間(FA期間)として9〜12ヶ月かかります。
審査自体には1~2年かかるため、特許を出願してから特許証をもらうまでに3〜5年とかなり時間を要するのが現状です。
特許出願は自力で行うより弁理士に依頼するのがおすすめ
特許出願やその後の各種申請手続きは、専門家である弁理士に代理人として依頼するのが一般的です。弁理士に依頼する場合と自分で申請する場合のメリットとデメリットを紹介します。
自分で特許を申請(出願)するメリット・デメリット
自分で特許を申請するメリットは、費用を抑えられることです。自分で全ての出願手続きをすると、弁理士への依頼代にかかる30万円以上の費用を抑えることができます。
デメリットとしては、手間と時間がかかる点が挙げられます。特許の出願から取得までには、特許の専門知識が必要な場面が数多くあり、手続きの途中で挫折する人も多いです。
弁理士に依頼するメリットは2つ
弁理士に依頼するメリットは主に以下の2つです。
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その①:事前に特許取得の可否を判断してくれる
弁理士は、先行技術調査を入念に行い、そもそも特許取得の見込みがあるのかどうかを判断したり、依頼した発明内容で特許を取得するメリットがあるのかアドバイスをしたりしてくれます。
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その②:出願書類作成から拒絶時の補正までサポートしてくれる
弁理士は数々の事例を経験しており、審査に通りやすい出願書類の作成方法も熟知しているプロです。審査の結果、拒絶理由通知が来たとしても、通知内容を精査し、適切に書類の補正をしてくれます。
事前の先行技術調査から出願書類作成、拒絶時の補正、特許登録完了まで全てサポートしてくれるため、無駄な時間と労力を費やしてしまうリスクが少なく、安心感は大きいでしょう。
特許申請(出願)にかかる費用
個人で特許申請する場合の費用と、弁理士に代行してもらう場合の費用について紹介します。
個人で申請(出願)した場合
個人で申請(出願)した場合、特許庁に支払う費用だけで済みます。費用の目安は以下の表をご覧ください。
出願費(手数料別) | 14,000円 |
出願審査請求料 | 13,800円+(請求項数×4,000円) |
特許登録料(1~3年目) | 4,300円+(請求項数×300円) |
特許料(4~6年目) | 10,300円+(請求項数×800円) |
特許料(7~9年目) | 24,800円+(請求項数×1,900円) |
特許料(10~25年目) | 59,400円+(請求項数×4,600円) |
※表は2022年12月時点での特許料です。
平均の項数は10前後です。請求項数を10とすると、特許登録をするまでにかかる費用は75,100円です。
出願費 | 14,000円 |
出願審査請求料 | 53,800円 |
特許登録料(1~3年分一括) | 7,300円 |
合計 | 75,100円 |
特許取得後も毎年特許料を支払う必要があります。
弁理士に代行してもらう場合
特許申請の手続きを弁理士に依頼する場合、代行費用と出願費用がかかります。
特許の申請内容によって大きく異なりますが、代行費用の相場は30〜80万円です。弁理士に依頼する際にかかる費用の詳細は以下の通りです。
出願書作成 | 10万円~ |
審査請求料 | 5万円~ |
登録手数料 | 15万円~ |
費用についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
特許を申請(出願)する方法
ここからは、特許を申請(出願)する方法について紹介します。
①先行技術調査で特許が使われていないか調べる
特許出願の前段階として「先行技術調査」をする必要があります。先行技術調査とは、自分が特許を申請しようとしている発明内容が、すでに誰かに取得されていないかを調べる事前調査のことです。
過去に認められた特許の発明内容は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で調べることが可能です。
先行技術調査で同じ発明内容が見つかった場合、当然そのまま出願しても特許は認められません。
まったく同じではなくても、似通った内容の発明がすでに特許として取得されている場合も、新規特許が認められない可能性が高いです。
②申請書類作成前に「識別番号」を取得する
先行技術調査をしたら、「識別番号」を取得しておきましょう。識別番号とは、特許の出願人および出願代理人などの特許申請者に割り振られる番号のことで、本人確認などに使用されます。特に、特許を電子申請する場合には、必ず事前取得が必要です。
③5種類の特許申請書類を作成する
特許出願に必要な書類は下記の5つです。
願書 | 申請者の氏名や住所など、特許を出願する人・発明者の情報を記載する |
要約書 | 特許を出願する発明や商品の概要を、分かりやすく文章で要約してまとめる書類 |
明細書 | 特許を出願する発明や商品の内容・技術について、文章で詳しく具体的に説明する |
図面 | 「明細書」と同様に、特許を出願する発明の内容を詳しく説明する書類。こちらは主に文章ではなく図表を使用する |
特許請求の範囲 | 出願する発明内容について、どこからどこまでを特許の権利として申請するのか定義する文書。 審査が通った場合、この「特許請求の範囲」に記載した範囲だけが特許の権利として認められる |
なお、特許の出願時は以下の書式を使用します。要約書・明細書・特許請求の範囲についても、用紙サイズや書き方が願書と同じ形式を満たしていれば、所定の形式以外も使用できます。
詳細は特許庁のホームページをご参照ください。
④特許申請書類を特許庁へ提出する
特許出願書類の提出方法には、「持ち込み」「郵送」「オンライン」の3通りがあります。
【持ち込みの場合】
都内にある特許庁の1階窓口まで出向いて、出願書類を直接手渡しましょう。なお、特許庁への入館には身分証明書の提示が必要です。持ち込みの提出だと窓口で簡単に書類の様式をチェックしてもらえますので、特許出願が初めての方にはおすすめの方法です。
【郵送の場合】
地方に住んでいて東京都内まで行けないという方は、郵送で出願書類を提出することができます。郵送の宛先は以下です。
〒100-8915
東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
特許庁長官
封筒には中身が分かるよう「出願関係書類在中」と記載しておきましょう。普通郵便ではなく書留で送ることをおすすめします。
【オンラインの場合】
オンラインの場合は、自分のパソコンか全国にある知財総合支援窓口の専用パソコンを使って申請ができます。
ただし自分のパソコンからの申請は、電子証明書やICカードリーダーなどの準備が必要となり、やや面倒なのが難点。知財総合支援窓口まで出向いたほうが簡単です。知財総合支援窓口でオンライン申請する場合は、必要書類の電子データが保存されているUSBメモリとマイナンバーカードが必要です。
⑤特許申請費用を振り込む
申請方法によって、出願手数料(14,000円)の振り込み方法が異なります。
【持ち込み/郵送の場合】
支払い方法 | 出願書類の1ページ目に14,000円分の特許印紙を貼り付けて支払う |
特許印紙の購入場所 |
|
書類の電子化手数料 | (700円×出願書類の枚数)+1,200円 出願書類を提出してから10日程度で電子化手数料の振込用紙が届く |
【オンラインの場合】
支払い方法 | いずれかの方法で納付↓
|
電子化手数料 | なし |
それぞれの詳しい納付手順については、特許庁の電子出願ソフトサポートサイトで確認できます。
特許を申請(出願)した後の流れ
実は特許出願(申請)だけでは、特許庁による実際の審査は始まりません。特許出願の次に「出願審査請求」という申請も行わないといけないのです。出願審査請求の概要と、手続きの流れについて見ていきましょう。
①出願審査請求書を提出する
特許出願が終わったら、次に「出願審査請求」をします。提出は郵送とオンラインのどちらでも行うことが可能です。出願審査請求書は様式が決まっているので、特許庁のページにて記載項目を確認しましょう。
提出先 | 特許庁 |
提出する書類 | 出願審査請求書 |
提出方法 | 郵送/オンライン |
期限 | 出願から3年以内 |
参考:出願審査請求書|特許庁 |
②出願審査請求の手数料を納付する
出願審査請求には所定の手数料がかかります。所定額分の特許印紙を出願審査請求書に貼り付けることで納付可能です。
出願審査請求の手数料は、「(4,000円×請求項の数)+118,000円」となっています。請求項とは、特許出願書類の「特許請求の範囲」に箇条書きで記載した、発明内容の項目のことです。
③審査結果の通知を受け取る
出願審査請求が完了したら、特許庁の審査結果を待ちます。審査結果が出るまでには数ヶ月単位の時間がかかりますので、気長に待ちましょう。
審査が終わると、特許庁から結果の通知が届きます。審査に通れば、特許の登録料を支払うステップに移ります。
審査に落ちた場合は「拒絶理由通知」が届きます。出願書類の修正や意見書の提出などによって、再審査をしてもらうことができます。
一発で審査に通る確率は2割以下だと言われているので、大抵一度は審査落ちを経験することになるはずです。そのため、審査結果の拒絶理由通知が来ても焦らずに、よく通知内容を検討して書類の修正をしましょう。
④特許が認められたら登録料を納付する
特許が認められたら特許料を納付します。この際、3年分の特許料を一括で支払います。登録後4年目以降は、毎年1年ごとの納付です。
特許登録時の特許料は、「(200円×請求項の数)+2,100円」×3年分となります。特許料の納付が完了すると、ようやく正式に特許が登録されます。
特許を申請するときの注意点5つ
特許出願と審査請求は、法律が絡むとても繊細な手続きです。致命的なミスやトラブルを防ぐために、特許出願と審査請求に関する要注意ポイントを押さえましょう。
①特許出願する前にメリットを考える
特許の出願から登録までには、多くの労力と費用がかかります。特に出願審査請求の手数料は高額です。そのため、特許出願をする前に特許を取得した後のメリットについてよく考える必要があります。
もし出願しようとしている特許の内容に社会的なニーズがなければ、特許を取れたところでビジネスは成立せず、お金にはなりません。
多くの時間と金額を費やして特許を取ったにもかかわらず、意味がなかったという事態になってしまいかねないのです。
②できる限り迅速に出願する
特許の出願は、可能な限り迅速に申請することが求められます。これは日本の特許法が、同じ発明でも先に出願された発明を特許として認める「先願主義」を採用しているからです。もし仮にあなたがライバルより先にある商品を発明したとしても、特許出願が遅ければあなたの特許は認められなくなってしまうのです。
③特許出願までは内容を秘密にする
特許の出願が無事に完了するまでは、発明の内容を秘密にしておかなければいけません。出願前に、守秘義務がない他人に発明内容を伝えてしまうと、特許の重要な要件である「新規性」を満たさなくなってしまいます。
新規性を喪失すると、原則として特許が認められなくなるのです。そのため、特許出願が終わるまでは発明を公表しないことが重要になります。
④複数人で特許申請する場合は、発明者と持分を明確にする
特許出願は、複数人の名義で申請することもできます。特許出願では出願人と発明者を申告する必要があり、いずれも複数人を指定可能です。
出願人と発明者が異なる | 特許取得後に発明を使用する権利は出願人が有する |
発明者が複数いる | 出願人・発明者に誰を指定するか明確にする必要がある |
出願人を複数人指定する | 特許取得後には各出願人が発明を使用できる権利を持つ |
出願人が複数いる場合は、後々トラブルになりやすいので注意が必要です。権利の譲渡や第三者へのライセンス付与などには、共同出願人の同意が必要だからです。特許出願前にあらかじめ契約書を取り交わすなどして対策しておきましょう。
⑤出願内容が公開されてしまう
特許が認められる・認められないに関わらず、出願公開制度によって出願内容が公開される点にも注意が必要です。
出願公開制度とは、特許を出願してから1年6ヶ月経過した後に発明した商品や技術が公開される制度のことで、相似した発明内容が申請されるのを防ぐことを目的としています。
特許が認められない場合、競合他社に自分の発明が真似されるリスクを抱えることになります。
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