雇用保険は正社員だけでなくパートやアルバイトも加入条件を満たした場合、加入義務が生じ加入手続きが必要になります。この記事では雇用形態ごとの雇用保険の加入条件や雇用保険料の計算方法、必要な手続きや書類の書き方まで人事労務担当者が知っておきたいことをわかりやすく説明します。
雇用保険制度と給付内容
雇用保険制度の目的の一つは失業した労働者の所得を守ることです。雇用保険制度には失業した場合に給付される失業保険以外にも、育休や介護休業に対する育児休業給付金や介護休業給付金。また職業訓練を受けるための教育訓練給付金などがあります。ここでは雇用保険制度の概要や目的、給付内容について分かりやすく解説します。
雇用保険とは
雇用保険は労働者の雇用の安定と継続を守るための社会保険制度です。政府が保険者となって、3つの保険事故に対して必要な給付を行います。3つの保険事故は下記の通りです。
- 失業した場合
- 雇用の継続が困難となる事由が生じた場合
- 自ら職業に関する教育訓練を受けた場合
この3つの保険事故が原因で、労働者が経済的困窮に陥ってしまうのを守る制度が雇用保険制度です。
基本手当(失業保険)
基本手当は求職者給付とも呼ばれ、一定の雇用保険の加入者が定年や倒産、契約期間の満了などが理由で離職した場合、早期の再就職への援助や促進のために支給されます。雇用保険の加入期間や失業状態にあるなど、一定の条件を満たさなければ支給されません。
基本手当の支給を受ける時は、自分が住んでいる地域を管轄するハローワークへ求職の申し込みをし、離職票を提出し受給資格の決定を受け、受給資格者になります。受給資格者になった後は、失業認定日に、出頭し、失業の認定を受けることでその日数分の基本手当を受け取ることができます。
基本手当は雇用保険制度の中でもっとも中心となる給付金で、失業した労働者の所得を守るために欠かせません。
その他の労働者に対する給付
雇用保険制度の失業等給付には基本手当以外にも労働者に対する給付金として、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付があります。
就職促進給付は失業者の再就職を支援するための給付金です。就職促進給付には、就業促進手当である再就職手当や就業促進定着手当、就業手当、常用就職支度手当や、移転費、求職活動支援費があります。
教育訓練給付は在職中に、一定の条件を満たした場合に厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し、終了した場合に支給される給付金です。支給額は教育訓練の内容によって異なります。一般教育訓練に関わる教育訓練給付金は原則として教育訓練施設の支払った受講料の20%に相当する金額が給付されます。
雇用継続給付は一般の被保険者が育児や介護などの理由で、雇用の継続が困難になってしまった場合に支給されます。雇用継続給付には高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付があります。
事業主に対する給付
雇用保険は労働者だけでなく、事業主に対する給付金(助成金)もあります。
【雇入れ関係の給付金】
特定求職者雇用開発助成金:高年齢者・障害者・母子家庭の母などの就職困難者を雇い入れた場合に支給
トライアル雇用助成金:障害者や安定就業を希望する未経験者を試行的に雇い入れることで支給
【雇用環境を改善するための助成金】
人材確保等支援助成金:人材確保の目的のために支給
キャリアアップ助成金:契約社員・パート・派遣社員などの雇用環境の改善のために支給
【人材開発関係の助成金】
人材開発支援助成金:若年者や契約社員・パート・派遣社員への訓練などを実施するために支給
上記以外にも被災地の雇用に関する助成金など複数あります。詳細に関しては以下のリンクから確認できるため、一度自社で利用できる助成金がないか確認するといいでしょう。
雇用保険の加入条件
雇用保険は労働者が安心して働くことができる社会を維持するために欠かせない制度です。事業所及び労働者が一定の条件を満たした場合、雇用保険に加入しなければいけません。
雇用保険の加入条件は以下の3つです。
・国内の適用事業所で雇用されている
・所定労働時間が週20時間以上
・31日以上継続して雇用されることが見込まれる
ただし、雇用形態によっては上記の条件を満たしても雇用保険に加入できない場合もあります。
また、未加入の場合は処罰されることもあります。そこで、ここからは事業所と労働者それぞれの加入条件や、加入条件から外れた場合の取り扱い、未加入時の罰則について詳しく説明していきます。
事業所の雇用保険への加入条件
労働者を一人でも雇用する事業所の場合、自動的かつ強制的に適用事業所となるので加入しなければいけません。
ただし、常時5人未満の労働者を雇用する個人経営の農林水産事業(船員が雇用される水産の事業、国、都道府県、市町村等の事業を除く)の場合は、雇用保険の適用は事業主の任意(任意適用事業所)となり、加入するには労働者の2分の1以上の同意が必要になります。
正社員
65歳未満の正社員は、雇用保険の一般被保険者です。
平成29年1月1日より65歳以上の方も雇用保険の適用対象となりました。法改正以降に雇用される65歳以上の方は高年齢被保険者に該当するので、雇用保険への加入が必須です。
パート・アルバイト
パートやアルバイトでも31日以上雇用される見込みがあり、かつ週所定労働時間が20時間以上の場合は雇用保険の被保険者に該当します。派遣社員の場合の加入条件も同じです。
例外として学生は原則被保険者になりませんが、定時制や夜間の学生は条件を満たせば雇用保険の被保険者になります。
日雇い労働者や季節労働者
日雇労働者は、雇用保険の日雇労働被保険者に該当します。ここでの日雇労働者は、日々雇用される者又は、30日以内の期間を定めて雇用されるものを言います。
季節労働者の中で、4ヶ月以内期間を定めて雇用される者、週所定労働時間が20時間以上30日未満である者いずれにも該当しない場合は短期雇用特例被保険者に該当します。
役員
株式会社の代表取締役や監査役、個人事業主は被保険者になりません。
ただし、従業員と役員を兼ねている兼務役員は、雇用関係に基づいて支払われる賃金と委任契約に基づいて支払われる役員報酬との支払い比率から、労働者性が強い場合は、雇用保険の被保険者に該当します。具体的には、賃金の額が役員報酬の額を上回っていることが条件になります。
被保険者に該当するか判断するための資料として、添付書類と共に「兼務役員にかかる雇用保険被保険者資格要件証明書」をハローワークへ提出します。
雇用保険の加入条件から外れた場合
シフトの減少等で就業期間の途中で就業時間が週20時間未満となった場合は、その時点で原則として雇用保険の被保険者から外れます。週20時間未満になった以降も継続して勤務する際には、勤務時間が変更になった前日に離職したとして扱われるため、被保険者資格喪失手続きを行います。この手続きをすることで、離職票が発行されます。
雇用保険に未加入の場合は罰則は?
労働者が被保険者に該当しているにもかかわらず、会社の加入手続きを行わなかった場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰則が科せられる恐れがあるため注意してください。
雇用保険料の計算方法
雇用保険の保険料は事業主と労働者双方が負担します。保険料は賃金に対して、保険料率を掛けて計算できます。ここでは雇用保険料の計算方法と、雇用保険料の対象になる賃金及び端数がでてしまった場合の処理に関して解説します。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料の計算方法は以下の通りです。
【雇用保険料の計算方法】
雇用保険料=賃金(総支給額)×雇用保険料率
賃金に該当するものと、該当しないものは下記の表の通りです。
雇用保険料の賃金に該当するものと、該当しないものがあるため注意して下さい。
雇用保険料の対象になる賃金 | ・通勤手当(非課税分を含む) ・定期券、回数券(通勤のための現物支給分) ・超過勤務手当 ・深夜手当(いわゆる残業手当など) ・宿直手当 ・日直手当 ・家族手当 ・子供手当 ・扶養手当 ・技能手当 ・教育手当 ・特殊作業手当 ・住宅手当 ・地域手当 ・皆勤手当 ・精勤手当などの奨励手当 ・休業手当(「労働基準法」第26条。事業主の都合で休業した場合に支給) |
雇用保険料の対象にならない賃金 | ・役員手当 ・結婚祝金 ・死亡弔慰金 ・災害見舞金 ・年功慰労金 ・勤続褒賞金 ・退職金 ・出張旅費 ・宿泊費 ・休業補償費(「労働基準法」第76条。労働者が業務災害により休業した場合に支給) ・傷病手当金(「健康保険法」第99条。労働者が業務外の傷病により休業した場合に支給) ・解雇予告手当(「労働基準法」第20条。30日前の解雇予告なしに労働者を解雇する場合に支給する手当) |
雇用保険料は毎月の給与の総額に雇用保険料率を掛けて計算します。雇用保険料率は下記の通りです。
事業の種類によって保険料率が異なり、農林水産・清酒製造事業及び、建設事業以外は一般の事業に該当します。
雇用保険料の計算例
次に雇用保険料を具体的に計算していきましょう。税金や社会保険料の控除前の給与や賞与に雇用保険料率を掛けて計算します。
税金や社会保険料の控除前の給与が30万円だった場合、
30万円×6/1,000(2019年度「一般の事業」の雇用保険料率)=1,800円
1,800円が事業者側が負担する雇用保険料です。賞与も同様に計算します。
1円未満の端数が出たときは、労使間で特に取り決めがなければ原則50銭未満の場合は切り捨て、50銭以上は切り上げて処理します。
雇用保険料の徴収はいつから?
雇用保険料は給与を支払う度に徴収します。そのため、退職した社員の場合、最終の給与を支払う時点で在籍していなくても、雇用保険料を控除してから給与を支払うことになるので注意して下さい。
雇用保険の加入に必要な手続き
新規の事業所は労働者の雇用保険の加入手続きをするためには、先に適用事業所の設置手続きをしなければいけません。そのため最初に労働保険関係成立届を原則、労働基準監督署へ提出します。その後、所轄のハローワークへ雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届などの書類を提出し加入手続きを行います。雇用保険に必要な書類や提出先は下記の通りです。
必要書類 | 提出先 | 提出期限 | 添付種類 |
労働保険関係成立届 | 労働基準監督署 | 保険関係が成立した日の翌日から10日以内 | 労働保険概算保険料申告書、法人の場合=登記事項証明書(原本)、個人事業の場合=事業主世帯全員の住民票写し(原本)、事業所の実在を確認できる書類、事業実態を確認できる書類 |
雇用保険適用事業所設置届 | 所轄のハローワーク | 設置日が成立した日の翌日から10日以内 | 出勤簿、労働者名簿、賃金台帳、源泉徴収簿、法人の場合は登記簿謄(抄)本等、法人でない場合は事業の開始を証明する書類等 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 所轄のハローワーク | 被保険者となった日の属する月の翌月10日まで | – |
労働保険関係成立届
新規の事業所で新しく労働者を雇い入れる場合は、雇用保険の手続きを行う前に労働保険の適用事業所になるための手続きが必要です。そのため、労働保険関係成立届を原則として労働基準監督署へ提出して手続きを行います。
雇用保険適用事業所設置届
初めて従業員を雇い入れる場合、雇用保険適用事業所設置届を所轄のハローワークに提出します。書類はハローワークの窓口で貰うか、もしくは下記のサイトからダウンロードできます。
雇用保険適用事業所設置届には、代表者の氏名や事業の概要、事業所の所在地を記入します。提出先は所轄のハローワークです。提出期限は、設置日が成立した日の翌日から10日以内です。
必要な添付書類は、出勤簿、労働者名簿、賃金台帳、源泉徴収簿、法人の場合は登記簿謄(抄)本等、法人でない場合は事業の開始を証明する書類等です。
雇用保険被保険者資格取得届
事業所は労働者を雇い入れる場合は、加入者1人つき雇用保険被保険者資格取得届を1枚を所轄のハローワークへ提出しなければいけません。書類はハローワーク、もしくは下記のサイトからダウンロードできます。
個人番号の欄には雇用した人のマイナンバーを記入します。
過去に雇用保険に加入したことがない人の場合は、新規の扱いになりますので注意して下さい。
賃金の欄には雇用契約を結んだ時点での給与形態と賞与を除いた月額の金額を記入します。また資格取得日は試用期間や研修期間を含めた雇用を開始して日付です。
事業所で新たに人を雇用した場合、雇用保険被保険者資格取得届を必ず雇用関係が成立した月の翌月10日までに提出します。
雇用保険被保険者資格取得届の書き方や提出に関する詳しい記事はこちら>>>雇用保険被保険者資格取得届の書き方 従業員が入社した時の手続き
雇用保険資格取得等確認通知書
雇用保険被保険者資格取得届を提出後に、雇用保険被保険者証とあわせて雇用保険資格取得等確認通知書(被保険者通知用)がハローワークから交付されます。雇用主は雇用保険被保険者資格取得届を交付された時点で、被保険者に渡さなければいけません。
雇用保険被保険者証は雇用保険に加入していることを証明する書類です。雇用保険被保険者証は事業所で保管され、退職時に被保険者に渡します。転職先へ提出が必要になるため大切に保管して下さい。
手続きが遅れた場合
雇用保険の手続きが遅れてしまった場合、基本的に2年間まで遡及して手続きが可能です。遡及して手続きをする際に、遡る全期間分の賃金台帳と出勤簿、遅延理由書などをハローワークへ提出します。
万が一雇用保険の加入義務を事業者が怠ってしまった場合、雇用保険法83条1号により「事業者が被保険者資格を有する労働者を雇用保険に加入させる義務を怠ったときは、懲役6ヶ月以下もしくは罰金30万円が科せられる」と罰則規定があります。ただし加入義務を怠ってしまったからといって、すぐに罰則規定によって処罰されることはありませんが、労働局の調査によって義務違反が判明した場合、指導、勧告が行われるため注意して下さい。
まとめ
従業員を一人でも雇い入れた場合は、原則雇用保険に加入しなければいけません。雇用保険の手続きには必要な書類が多く、慣れない方にとっては煩雑な手続きです。そのため必要な書類や手続きの流れを事前に確認しましょう。
この記事を監修した社労士
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