漆喰(しっくい)とは、瓦屋根の頂部にあたる「棟(むね)」の土台部分に詰められている、石灰でできた白い溶剤のことです。
防水効果や接着効果、防火効果などのメリットから、屋根以外に外壁塗装や天井などにも使われることがあります。
漆喰の表面は多孔質(小さな穴がたくさんある)であるため、湿度の高い状態の時は水分を吸い、湿度が低い時には水分を放出します。
また石灰の性質上、静電気が起こりにくくゴミやホコリを寄せ付けにくいというメリットも。
経年劣化によって屋根の漆喰が剥がれてしまうことがあり、これを放置しておくと雨漏りなどの原因になります。
この記事では瓦屋根における漆喰の重要性を紹介しつつ、漆喰の寿命や劣化症状、補修方法や費用相場について解説していきます。
屋根瓦に漆喰が使われている理由
瓦屋根に使われる、漆喰(しっくい)の役割
複数の屋根面が交差して突き当たる頂部を、棟(むね)といい、棟(むね)と屋根面との間に詰められるのが漆喰(しっくい)です。
棟瓦は雨水防止の役割をしますが、瓦は波状の形をしているので隙間を埋める必要があります。
下地には「葺き土(ふきつち)」が使われますが、土が露出している状態では雨に弱く、屋根からの浸水を許してしまうことに。
そこで土の上から漆喰を塗ることで、屋根の棟部分を雨風から守り、瓦同士を接着することができるのです。
他の建材と同様に、漆喰も経年劣化してしまいます。もし漆喰が崩れてしまうと屋根に雨が浸水したり、瓦全体がズレていってしまったりするので、定期的に補修する必要があるのです。
ちなみに瓦以外の屋根の棟部分には、棟板金(むねばんきん)という金属をネジなどで取り付けています。
漆喰の寿命は?劣化症状がでたら補修しよう
漆喰の寿命は20年前後。瓦の耐用年数が50~60年ほどなのに比べると、かなり短めです。
劣化が進むとひび割れや屋根全体のズレなどにつながるため、定期的な点検・メンテナンスをしましょう。
漆喰が劣化する要因としては、おもに以下のようなものがあります。
- 長期間、雨風にさらされる
- 日光や季節ごとの寒暖差
- 地震などの揺れで負担がかかる
漆喰は時間が経つとともに徐々に硬くなる性質があります。その状態で雨風に晒され、気温が激しく変化する環境に置かれることでひび割れなどが起こってしまいます。
もしヒビが入ってしまうと棟から雨水が内部に入り、水分による膨張で漆喰を押し上げて剥がしてしまうなど、さらに悪化する恐れも。
また屋根裏にホコリや虫が入ってしまう可能性や、隙間からコケがむしてしまう可能性も上がります。
劣化症状①:漆喰の剥がれ
棟と瓦を接着するための漆喰が剥がれることで、内部の土が流れ出る症状です。
瓦屋根にとって、土台へのダメージは最も致命的。雨の浸水などで棟が変形、またはズレたりしてしまうと、屋根全体や屋根裏にまで劣化が進行してしまいます。
少しの破損であれば、部分的に漆喰を塗り直して補修することが可能。広範囲の破損は全体の塗り直しが必要です。
なかなか自分の目で屋根を見上げる機会がないので、軒先にコンクリートのようなものが落ちていて初めて症状に気づくことも。そうならないうちに、定期点検しておきましょう。
劣化症状②:瓦のズレ、抜け落ち
瓦自体のズレや抜け落ちのおもな原因は、台風の飛来物や地震などです。
しかし瓦がズレたところから棟や下地部分に浸水し、腐食や漆喰の剥がれにつながることも。
その結果、さらに瓦がズレて抜け落ちていってしまうという悪循環が繰り返されていきます。
棟部分も瓦部分も、歪みや隙間がないかしっかり確認しておきましょう。
劣化症状③:雨漏り
補修を必要とする屋根の諸症状のなかでも、もっとも致命的と言っていいのが「雨漏り」です。
雨漏りするということは、どこかに必ずひび割れや穴あきがあり、家屋内部の木材などを通過しています。
そのため補修する際には、瓦をすべて取り外してから行う「葺き直し(ふきなおし)」や、全面張り替えをする「葺き替え(ふきかえ)」が必要になることも。
漆喰からの浸水が原因だとしても、漆喰を補修するだけでは解決しません。もちろん工期や費用も大きくなります。
そうならないためにも、定期的なメンテナンスをしておきましょう。
漆喰・瓦屋根の補修方法と費用相場
漆喰や瓦屋根が劣化・破損したときの、補修方法と費用相場を紹介します。
ちなみに、屋根の点検費用は5,000円〜15,000円が相場です。 補修することを前もって決めていれば点検が無料のケースもあります。
漆喰の詰め直し
漆喰の補修方法には、詰め直し工事が行われます。
古い漆喰をハンマーで叩いて剥がし、棟の土台である葺き土を綺麗に整える作業をします。そのうえで専用のコテで新しい漆喰を詰めます。
補修費用は1mあたり4,000円~7,000円が相場です。
一般的な漆喰の長さは約60mとされており、その場合は合計24~42万円ほど。
また高所作業につき足場が必要となるため、別途費用15~25万円がかかります。
瓦や屋根全体を補修する場合
漆喰の劣化だけでなく、屋根全体にズレや割れなどの症状がみられる場合、瓦の補修作業も行う必要があります。
1.瓦が破損している時には、一部交換
瓦が部分的にズレ落ちてしまったり、割れてしまっている場合には、一部分だけ新しい瓦に交換することができます。
費用は1枚当たり1~5万円ほどが目安で、瓦の種類によって上下しますが、部分的な補修なので比較的コストを抑えられます。
2.下地や防水シートが傷んでいる場合は、瓦の葺き直し
屋根の葺き直し(ふきなおし)とは、既存の屋根瓦をいったん取り除き、防水シートや野地板を補修したうえで、再び瓦を積む施工方法です。
基本的には既存の瓦を積みなおしますが、一部分だけ新しい屋根材を補充するケースもあります。
費用は1㎡あたり約1万円が相場です。工事期間は約10日で、一般的な40㎡くらいの屋根なら約45万円程度となります。
3.瓦も下地も、屋根全体が寿命のときには葺き替え
漆喰の劣化や瓦のズレなどの症状が出ているとき、そもそも耐用年数を超えている場合には葺き替え(ふきかえ)で対処します。
葺き替えとは、屋根を全面張り替えることです。大規模なリフォームになり、工期も1か月以上かかることもあるので、新しい屋根材を検討してみてもよいかもしれません。
費用は平均的な30坪の家屋で、約100~250万円ほどです。こちらも、新しい屋根材に何を選ぶのかによって上下します。
漆喰・瓦屋根の補修方法と費用相場まとめ
補修方法 | 費用相場 |
漆喰の詰め直し | 4,000~7,000円/m |
瓦の一部交換 | 10,000〜50,000円/枚 |
瓦の葺き直し | 約45万円 |
葺き替え | 約100~250万円 |
【ちなみに】火災保険でまかなえるケースも
台風や地震、雷などの災害が起こると、住宅に負荷がかかり劣化症状がみられるケースが少なくありません。
もしも災害が原因で屋根の補修が必要になった場合には、加入している火災保険が適用できる可能性があります。
まずは保険会社に連絡を取ってみましょう。もし保険で補修できる場合には、点検時に現状の写真を撮ってもらうことを忘れずに。
漆喰はDIYで補修できる?
結論から言えば、漆喰をDIYで補修するのはおすすめできません。
漆喰が剥がれ落ちているのを見つけたら、雨漏りなどの深刻な劣化につながるまえに、一刻も早く補修が必要です。
そこでDIYをかじっていれば、セメントやコーキングが思い浮かぶ人も多いはず。
しかし屋根の仕組みをしっかり理解せず補修すると、雨水を排出するのに必要な出口まで塞いでしまうことに。
またセメントやコーキングには漆喰に必要な繊維質が含まれていないので、短期間で瓦が割れたり、剥がれ落ちたりしてしまいます。
漆喰の補修業者を選ぶときの注意点
漆喰の補修は、瓦屋根の専門知識や実績がある業者に依頼しましょう。中には屋根工事以外に外壁工事や板金工事にも対応できる業者もあり、瓦工事のついでに施工してもうことも可能です。
ちなみに大手のリフォーム業者などに依頼すると、下請け会社に発注するためマージン(仲介料)がかかることがあります。費用面ではデメリットになりますが、そのぶんアフターケアが充実していることもあるので比較してみるとよいでしょう。
また地域密着型の工務店であれば、実際の評判を聞くことで安心して依頼できます。地域性や立地条件に詳しいため、ベストな選択をしてくれるはずです。
資格や実績がある業者を選ぶ
瓦屋根の施工には3つの資格があります。資格を持っている職人さんがいることも業者選びの判断材料のひとつになります。
- かわらぶき技能士(1級、2級)
- 瓦屋根工事技士
- 瓦屋根診断技士
かわらぶき技能士(1級、2級)
瓦葺きに関する知識や技術を証明する国家資格です。学科と実技試験があります。
受験資格は、2級を取る場合には2年以上の経験、1級の場合には7年以上の経験、もしくは2級を取得してから2年以上の経験が必要です。
瓦屋根工事技士
瓦屋根工事の管理者資格です。取得するためには構法、施工、設計、品質管理など幅広い知識が必要になります。
かわらぶき技能士は実際に工事をする職人の資格ですが、瓦屋根工事技士は主に事業主に求められる資格です。
受講資格は実務経験が3年以上となっています。
瓦屋根診断技士
瓦屋根診断技士とは、その名の通り、瓦屋根の診断における専門的な技術や知識を持っている人です。
かわらぶき技能士と瓦屋根工事技士の両方の資格を有したものしか得ることができません。
見積もり、工程の説明が詳しい業者を選ぶ
複数の業者で迷ったら、見積もりを比較してみましょう。たとえば葺き替え工事の場合、下記が見積もり項目の一例になります。
【撤去費用】 | 既存材料の撤去をする費用 |
【処理費用】 | 撤去した廃材や産業廃棄物の処理費用 |
【下地補修費】 | 下地材(野地板、コンパネ)を補修する際の費用 |
【防水シート施工費用】 | 新しく貼りつける防水シートの費用 |
【仕上げ材本体の施工費用】 | 新しい屋根材の費用 |
【その他部品の施工費用】 | 仕上げに設置する軒先、棟など本体以外の部品費用 |
【足場代】 | 足場を設置した際の足場代 |
【諸経費】 | 運搬費、交通費、事務費、管理費などの必要経費 |
【消費税】 | 10% |
見積もりを取った際に価格に差がでるのは次の項目です。
- 原材料の単価
- 仲介手数料の有無
- 施工方法の違い
1.大手の場合、一括で大量に材料を仕入れるため単価が安いことがあります。ただし高い材料を選ぶとそれだけ見積もりは高くなるので、同じ材料で比較する必要があります。
2.また地元の業者であれば仲介料はかかりません。大手のリフォーム会社やハウスメーカーでは、仲介手数料が加算されています。
3.屋根の葺き替えや漆喰の詰めなおしをする際、実際には足場の組み立てや飛散防止シートの設置、また場合によっては洗浄などの工程が必要です。悪徳業者などでは施工項目をアバウトに記載して工程を省いたり、相場よりも高い費用を請求することもあるので注意が必要です。
そのほかの注意点
そのほかにも、いくつか気を付けておいたほうがいいポイントがあります。
まずは、施工中の写真を撮ってくれるかどうか。実際に昇ってみないことには、屋根の状態は分かりません。施工内容や請求内容が妥当なのかどうかも不明になってしまうため、可能であれば屋根の写真を撮りながら作業してくれる業者を選びましょう。
つぎに、アフターケアがしっかりしているかどうか。たとえば施工後すぐにボロが出てしまっても対応してもらえなければ、また業者に依頼するほかありません。事前にアフターケアや保証期間についても確認しておくと安心です。
また意外と多い詐欺業者にも注意しましょう。とくになぜか相場よりも格段に安いリフォーム内容や、突然の訪問営業をしてきた場合には詐欺の可能性が高いです。
「安かろう悪かろう」にならないよう、優良企業に依頼しましょう。
【豆知識】漆喰の種類
漆喰の種類はいくつかあり、それぞれ成分が異なるため用途も様々です。
本漆喰
一般的に漆喰と呼ばれているものは本漆喰です。海藻(フノリ)を炊き、塩焼き消石灰と「すさ」と呼ばれる麻の繊維を混ぜて昔ながらの製法で作られています。
土佐漆喰
塩焼き消石灰に3か月以上発行させたワラと水を混ぜて作られたものが土佐漆喰です。
紫外線にあたると変色し、薄い黄色から茶色へと変化していきます。厚塗りで強度があることから床や壁、天井に使用します。
昔はかまどにも使用されていました。
琉球漆喰
琉球漆喰はムーチー、ムチとも呼ばれ、沖縄の方言では餅を意味します。生石灰とワラと水を混ぜて作ります。
土佐漆喰よりもワラの混入量が多いのが特徴。沖縄では屋根の瓦に使用されています。
既調合漆喰
メーカーが製造する、既製品の漆喰製品です。
塩焼き消石灰に麻すさ、粉末の海藻のりや炭酸カルシウムなどを配合して作られます。
合成樹脂や化学繊維を使用した漆喰もあり、製品によって着色したものも販売されています。
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今回は、瓦屋根における漆喰(しっくい)の重要性を解説しつつ、劣化症状や補修方法、費用相場について紹介してきました。
耐用年数が長い瓦屋根ですが、そのかなめとなる漆喰部分がダメになってしまっては、その持ち味が活かせなくなってしまいます。しっかりと定期的に点検しましょう。
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