社会保険制度では、賞与に対しても社会保険料が控除されます。毎月の給与では一定の料率で社会保険料が控除されているのを理解している人は多いと思いますが、賞与ではどのように社会保険料が計算されるのかを知らない人も多いでしょう。
今回は、賞与にかかる社会保険料の計算の仕方を解説すると供に、賞与にかかる源泉所得税の計算方法についても解説していきます。
賞与とは?
そもそも社会保険制度では、賞与についてどのような定義をしているのでしょうか?健康保険法と厚生年金保険法では、賞与のことを「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他のいかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるもの」と定義しています。
本項では、社会保険制度での賞与について詳しく見ていきます。
賞与とは
健康保険法と厚生年金保険法での賞与の定義では、賞与、ボーナス、手当など、どのような呼び方をしたとしても、年3回以下支給されるものが賞与です。一方、賞与的な性質を持って年4回以上支給されるものは、賞与とは見なされません。
賞与という名前で支給されていても、年4回以上支給されるものは健康保険法、厚生年金保険法等社会保険では賞与ではないのです。
賞与を支給したときの手続き
賞与を支給した事業主は、原則として、賞与支給日を起算日として5日以内に賞与支払届を提出する必要があります。書類の提出先は、管轄する年金事務所と健康保険組合です。
また、賞与の支給が無かった場合でも、賞与支払届総括表に不支給と記載して提出しなければなりません。なお、賞与支払予定月に前記統括表の提出がない場合は、後から会社に連絡がくることもあります。
参考:賞与を支給したとき|日本年金機構
賞与にかかる社会保険料の計算方法
賞与にかかる社会保険料の計算方法も給与と同じように標準報酬月額を基準に徴収されます。控除される社会保険の種類は、健康保険料、40歳以上~65歳未満の人が対象の介護保険料、厚生年金保険料です。また、会社負担のみの子ども子育て拠出金というものもあります。
本項では、賞与にかかる社会保険料について具体的に解説していきます。
賞与にかかる社会保険料の計算方法
賞与にかかる社会保険料の計算方法は以下の計算式で表すことができます。
(標準賞与額×健康保険の保険料率) + (標準賞与額×介護保険の保険料率) + (標準賞与額×厚生年金保険の保険料率)
標準賞与額とは
標準賞与額とは、支給された賞与額の1,000円未満を切り捨てた額のことをいいます。ただし、例外もあり、標準賞与額には上限額があります。
健康保険や介護保険の場合は、年間573万円(4月1日から翌年3月31日までの累計額)が上限額です。また、厚生年金保険の標準賞与額の上限額は、月間で150万円です。
健康保険料の計算例
介護保険の第2号被保険者(40歳以上、65歳未満の医療保険保険者)で、20万円の賞与を受け、標準賞与額が20万円の従業員Aさんの場合(勤めている会社は、東京都で全国健康保険協会に加入しているものとし、また、雇用保険料の計算において、一般の事業に該当するものとする)の令和元年7月に支払われた賞与の場合の計算
健康保険料:20万円(標準賞与額)×9.90%(健康保険料率)=19,800円です。
社会保険料は労使折半のため、従業員Aさんが支払う健康保険料は、9,900円になります。
健康保険料率は、全国健康保険協会の支部(会社の所在地の都道府県)により異なります。また、原則として毎年3月分(4月納付分)より、保険料率の変更が行われる可能性があります。
厚生年金保険料の計算例(厚生年金基金に加入していない場合)
厚生年金保険料:20万円×18.30%=36,600円です。
社会保険料は労使折半のため、従業員Aさんが支払う厚生年金保険料は、18,300円になります。
介護保険料の計算例
介護保険料:20万円×1.73%=3,460円です。
社会保険料は労使折半のため、従業員Aさんが支払う介護保険料は1,730円になります。
介護保険料率は、健康保険料率と違い、全国健康保険協会に加入している会社であれば、一律です。ただし、健康保険と同様、原則として毎年3月分(4月納付分)より、保険料率の変更が行われる可能性があります。
なお、介護保険料が徴収される「介護保険第2号被保険者」において、例えば、8月1日が40歳の誕生日の者は、誕生日の前日7月31日より介護保険第2号被保険者となり、7月分は保険料徴収の対象となります。
雇用保険料の計算例
賞与にかかる雇用保険の保険料は、健康保険料、厚生年金保険料等とは違い標準賞与額ではなく賞与額に保険料率を掛けて計算します。雇用保険の保険料率は、事業の種類によって異なります。また、労働者の保険料率と事業者の保険料率も違います。
Aさんの場合は、一般の事業で賞与額が20万円であるため、
雇用保険料:20万円(賞与額)×0.3%(雇用保険被保険者負担分)=600円
一般の事業に勤務しているAさんが負担する雇用保険料は、600円です。雇用保険料率は、原則として毎年4月より、保険料率の変更が行われる可能性があります。
引用:平成31年度の雇用保険料率について|厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク
その他、前述のとおり、会社のみの負担として、厚生年金保険の被保険者に賞与及び報酬を払った場合は、子ども子育て拠出金として1,000分の3.4を国に支払います。
賞与にかかる源泉所得税の計算方法
賞与から控除されるものは、社会保険料と雇用保険料の他に源泉所得税があります。賞与にかかる源泉所得税の計算式は以下の通りです。
賞与の源泉徴収税額=賞与から社会保険料等を差し引いた金額×税率
税率の求め方は、前月の給与から社会保険料を差し引いた金額と扶養親族等の人数を基に国税庁のWebページの「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」で算出することができます。
基本的に税率を求めるには前月の給与から社会保険料を差し引いた金額が必要ですが、前月の給与がなかった場合や賞与が前月の給与の10倍(社会保険料等を差し引いた額)を超える場合には源泉所得税の計算は特例的になります。
前月の給与がなかった場合は、賞与から社会保険料等を差し引いた金額÷6(賞与の計算期間が半年未満の場合、賞与の計算期間が半年を超える場合は、12)で求められた金額を、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に当てはめることにより税額が求められます。求められた税額を6倍(賞与の計算期間が半年未満の場合、賞与の計算期間が半年を超える場合は、12倍)した金額が、賞与にかかる源泉所得税の金額になるのです。
前月の給与が極端に少なかったケースなどは、賞与の額が前月の給与の10倍を超える場合もあるでしょう。そのような場合は、賞与から社会保険料等を差し引いた金額÷6(賞与の計算期間が半年未満の場合、賞与の計算期間が半年を超える場合は、12)で求められた金額に、前月の給与から社会保険料等を差し引いた金額で求めた金額を足して、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に当てはめることにより税額が求められます。
求められた税額を6倍(賞与の計算期間が半年未満の場合、賞与の計算期間が半年を超える場合は、12倍)した金額が、賞与にかかる源泉所得税の金額になるのです。
それでは、実際の例で賞与の源泉所得税を計算してみましょう。Bさんの12月の賞与とその前月(11月)の給与が以下であった場合の12月の賞与にかかる源泉所得税の税額を求めます。
- Bさんの12月の賞与:80万円(社会保険料等を差し引いた金額)
- Bさんの11月の給与:30万円(社会保険料等を差し引いた金額)
- Bさんの扶養家族等の人数:2人
上記を「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てはめていきます。表に当てはめた結果、Bさんの賞与にかかる税率は4.084%です。
この4.084%の税率を賞与の源泉徴収税額=賞与から社会保険料を差し引いた金額×税率の計算式に当てはめると、800,000円×4.084%=32,672円になります。したがって、Bさんの賞与の源泉徴収税額は、32,672円です。
賞与にかかる社会保険料が免除される場合
前項までに見てきた通り、基本的には賞与には健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料などの社会保険料がかかります。しかし、賞与にかかる社会保険料は、従業員の状況によっては免除される場合もあるのです。ここでは、賞与にかかる社会保険料がどのような場合に免除されるのかについて解説していきます。
退職者に賞与を支給する場合
健康保険や厚生年金では、「被保険者資格喪失日が属する月」に支払われた賞与に対して、保険料がかからない規定になっています。しかし、気をつけなければいけないのは、健康保険と厚生年金の被保険者が退職により資格を喪失する場合の被保険者資格喪失日は、原則として、退職日の翌日だということです。
すなわち、月末退職の場合に退職月に賞与が支給された場合には被保険者資格喪失日は翌日(翌月)になるため、健康保険や厚生年金などの社会保険料の徴収対象となるということです。そのため、月末退職の場合は注意が必要です。
産前産後休業中や育児休業中の社員に支給する場合
産前産後休業中や育児休業中の社員に賞与を支給した場合、申出により、育児休業などの開始日が属する月から育児休業などの終了日の翌日が属する月の前月に支給された賞与に対しては、健康保険も厚生年金も保険料はかかりません。ここで注意しなければならないことは、賞与の支給日には育児休業中だったとしても、その月に仕事復帰した場合には社会保険料はかかってしまうことです。
まとめ
今回は賞与にかかる健康保険料や介護保険料や厚生年金保険料などの社会保険料の概要や計算方法などを解説しましたが、特例などもありなかなか複雑です。社会保険料を間違えてしまうと大変なことにもなりますので、社会保険料のプロである社会保険労務士に依頼するのもおすすめです。
時間の短縮にもなりますので、検討してみるのも良いのではないでしょうか。
この記事を監修した社労士
京浜労務コンサルティングオフィス - 東京都港区南青山
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