会社は、社会保険や労働保険などに加入をし従業員が快適に働けるような環境作りが大切となります。
社会保険は業務外で怪我や病気をした際に病院で療養の給付や、将来もらう年金給付など私たちの生活に身近な保険と言えますね。
では、労働保険とはどんな保険なのでしょうか。今回は、労働保険制度や手続き方法、保険料の納付など徹底解説致します!
労働保険制度とは?
労働保険とは、正社員やパート、アルバイトに関係なく1人でも労働者を雇い入れて事業を行う会社には加入義務が生じる保険です。
また、労働保険には、業務中又は通勤中に怪我や病気をした際の療養給付などを受けられる「労災保険」と労働者が失業した際に新しい職が見つかるまでの一定額の保障等を受けられるなどの「雇用保険」が含まれます。
労働保険制度についてさらに詳しく説明していきます。
労働保険は3種類
労働保険には「労災保険」と「雇用保険」、そして「一般拠出金」があります。会社は毎年この3つの保険料を国に収める必要がありますが、それぞれどんな保険なのか分かりやすくご紹介致します。
労災保険
「過労死」や「長時間労働」が社会でも問題となっておりテレビや新聞でも大きく取り上げています。労災保険は、労働者が業務上又は通勤途中に怪我や病気、そして亡くなった場合に労働者やその遺族に必要な給付を行う制度です。
例えば、仕事中に怪我をし、仕事を休まざるをえない状況になった時、怪我が治るまでは療養の給付を受けられます。また、仕事を休んでいる期間は一定の所得補償が受けられる休業給付もあるんです。
もしも、障害の残るような怪我だった場合には障害等級によって一時金や年金を受けられる障害給付などもあり労働者に手厚い保険となっています。
労災保険は、健康保険とは異なり労働者の自己負担金がありません。そのうえ、保険料も全額会社負担なので社会保険料のように毎月給与から控除する必要がないのです。
また、労災保険は会社で働く「従業員」が対象の保険であり会社の代表や役員は原則加入することができません。しかし、中小企業の多くは社長自身も労働者として働いている場合もあるため一定の条件を満たせば「特別加入」という労災保険に加入できる制度もあります。
雇用保険
雇用保険は、失業した場合に新しい職が見つかるまで一定の金額が給付される「求職者給付」の他、育児や介護で会社を休んだ際に一定の金額が給付される「雇用継続給付」や働く人のスキルをアップするために学校や通信教育で学ぶための費用を負担する「教育訓練給付」などがあります。
なお、雇用保険は正社員だけでなくアルバイトやパートの方でも一定の条件を満たしていれば加入しなければなりません。また、保険料も業種によって保険料率が異なりますが、会社と労働者の両方で負担する必要があります。よって、会社は労働者の毎月の給与や賞与から雇用保険料を控除しなければなりません。
【番外編】一般拠出金
労働保険を収める際に「一般拠出金」も併せて納付しなければなりません。「労災保険」でも「雇用保険」でもないこの一般拠出金とはどんなものなのでしょうか。
こちらは、石綿すなわち「アスベスト」による健康被害者の救済費用に充てるもので労働保険に加入している適用事業所は申告、納付する必要があるものです。ただし、特別加入者や雇用保険のみ適用の事業主は申告・納付の対象外です。
労働保険関係成立届を提出しよう!
労働保険とは、労災保険と雇用保険を総称したものです。会社の利益は働く労働者から得ているため、労働者が業務中や通勤中に怪我や病気になった場合の医療費は会社が負担するという考えにあるのが労災保険です。よって、労災保険料については全額会社負担となっています。
しかし、小規模な会社で大きな事故が起これば、その補償で倒産に追い込まれてしまうことも考えられます。会社は労働保険に加入することにより、もしもという時の備えにもなるのです。
では、どんな会社が労働保険に加入しなければならないのか、そしてどのように手続きを行なったらいいのかを紹介致します。
従業員1人から対象になる
労働保険は、正社員やアルバイト、パートに関係なく従業員を1人でも雇っていれば一部の事業を除き加入の義務が生じます。
労働保険の適用事業所に該当した場合は保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内に労働保険保険関係成立届を届け出る必要がありますが、何を記入しどこへ提出するのか分からないという方も多いでしょう。
業種や事業内容によって手続き方法は異なりますが、一般的な方法をご紹介致します。
労働保険関係成立届の書き方
労働保険に加入する場合、まずは「労働保険保険関係成立届」を記入し事業所管轄の労働基準監督署へ提出します。
【労働保険保険関係成立届に記入する主なもの】
- 事業所の住所、電話番号
- 事業の概要
- 事業の種類
- 労災保険、雇用保険の成立日
- 労働保険対象期間の賃金総額見込額
- 労働者の人数など
上記を記載し、その年の労働保険料を計算し記載した「労働保険概算保険料申告書」も併せて提出します。
他にも会社の所在地を確認するための「登記簿謄本」などの添付書類も必要となりますが、会社の状況などにより添付書類が追加されることもあるので事前に監督署に確認すると良いでしょう。また、雇用保険に加入する場合はこの成立届が終了してからハローワークにて手続きを行います。
労働保険関係成立届の手続きはオンラインで可能!
なお、労働保険の加入手続きは監督署に直接提出する方法の他、オンラインでの申請も可能なんです。電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)電子申請システム」を用いることで紙媒体で行う申請をインターネットを利用しオンライン上で申請や届出を行えます。
届出書を直接役所へ提出する場合は役所の開いている時間に赴く必要がありますし、郵送だと時間がかかってしまいます。電子申請であれば24時間いつでもオンライン上で簡単に申請することが可能です。オンライン上で申請を行う場合は、パソコンの環境を確認したり設定などの事前準備も必要になりますのでご注意下さい。
労働保険の年度更新手続きを行おう!
労働保険とはどんなものか、また手続き方法を確認した次に気になるのは保険料の申告と納付ですね。労働保険料の算定期間や保険料を算出する際の計算方法などを紹介致します。
まず、労働保険料は原則として1年に1回まとめて申告納付することとなっています。保険料の申告納付は少し複雑なので、分かりやすく説明をしていきます。
労働保険は「1年分を前払い」が原則
まず労働保険料の対象となる算定期間は、4月から翌年3月までとなります。
労働保険料は算定対象期間に支払う賃金総額見込み額に保険料率を乗じて得た概算保険料を前払いする形になります。よって、1年分の保険料を前払いしている状態なのです。毎年3月を過ぎれば前年度の保険料が確定しますので、その年の見込みの保険料(概算保険料)と確定保険料で過不足を精算します。
これらの方法を毎年繰り返して行うことから「年度更新」と呼ばれています。
労働保険の年度更新に必要な2つの手続き
労働保険料の申告と納付を行う「年度更新」の手続きは、毎年6月1日から7月10日までの限られた期間で行います。
約1ヶ月の短い期間で保険料を計算し申告納付しなければなりませんので効率的に準備をしていく必要があるのです。こちらでは、スムーズに年度更新を行うための必要な2つの手続きをご紹介します。
①前年度の保険料の確定と精算
既に前年度の保険料を前払いで納めていますので、3月までの賃金総額から確定保険料を算出し精算を行います。既に納付している金額よりも確定保険料が少ない場合は還付、多い場合は追加で納める必要があります。
②本年度の概算保険料の計算と申告納付
本年度分の概算した保険料を計算し申告納付します。この時、前年度分の保険料が確定し還付になった分を本年度分の保険料や一般拠出金に充てることも可能です。
労働保険を計算しよう!
では、実際に労働保険料を計算してみましょう!労働保険料は、4月から翌年3月まで支払った賃金総額に保険料率を乗じて計算します。労災保険料率と雇用保険料率はそれぞれ定められていますし、さらに業種によっても料率が異なるので注意が必要です。では、具体的な計算方法をチェックしてみましょう。
①賃金総額
労働の対価として支払う賃金が対象となります。基本給や諸手当、交通費、賞与などが保険料の対象となる賃金に含まれますが恩恵的に支払われる結婚祝い金や退職金さらに実費弁償的に支払われる出張旅費、宿泊旅費などは対象外です。
②労災保険料
確定保険料と概算保険料を計算します。
労働保険料=全労働者の賃金総額の見込み額又は確定額×労災保険料率
労災保険料は正社員、アルバイトやパート、臨時労働者に支払った又は支払賃金が対象となり会社が全額負担します。保険料率は会社の業種によって異なりますし、概算保険料と確定保険料で保険年度によって料率が変わる場合もあるので注意が必要です。
③雇用保険料
労災保険料と同様に確定保険料と概算保険料を計算します。
雇用保険料=(雇用保険に加入している全労働者の賃金総額の見込み額又は確定額-4月1日現在で満64歳以上の雇用保険加入者の賃金総額の見込み額又は確定額)×雇用保険料率
※令和2年度より満64歳以上の雇用保険料の免除期間は終了となります。
雇用保険料は、雇用保険に加入している労働者の賃金総額が対象となりますが、保険年度初日の4月1日現在で満64歳以上の雇用保険加入労働者は保険料が免除されるため賃金を差し引く必要があります。
但し、令和2年度より保険料免除期間は終了となるため満64歳以上の雇用保険加入者の保険料を控除する必要があります。来年度の年度更新はこちらに気をつけて計算しなければなりません。
また、雇用保険料は会社と労働者の双方で負担するため労働者の毎月の給与から雇用保険料を控除し会社はそれを預かっています。年度更新の際に、会社負担分と労働者負担分を年1回まとめて会社が納付を行います。
④労働保険料
労働保険料=②で求めた労災保険料+③で求めた雇用保険料
確定保険料と概算保険料を求めてから前年度に支払った保険料を精算します。確定した賃金総額に一般拠出金を求めその年の納める保険料の総額が確定するのです。
労働保険の会計仕訳について知ろう!
労働保険とはどんなものか、また納める保険料の計算もわかりましたが会計上はどうなるのでしょうか。
労働保険料は見込みの概算保険料と確定した確定保険料の2種類ありますし、確定した賃金額と概算で支払っていた保険料の精算も必要となります。また、雇用保険に関しては毎月雇用保険加入者分の保険料を預かる必要もあるのです。
こちらでは労働保険の会計仕分けや勘定項目を紹介致します。
処理の時期によって労働保険料の仕訳区分が変わる!
労働保険料は、概算で保険料を前払いし翌年に確定した賃金総額で確定保険料を求めます。また、労働者の雇用保険料も毎月の給与から控除し預かり金として計上することとなるため会計も煩雑だと思われるかもしれません。
労働保険の仕分けのポイントは処理の時期によって費用の扱い方が変わることです。下記の時期に注意をして仕分けを行うようにしましょう。
- 概算保険料を支払う時
- 給与預かり時
- 決算期
- 精算時
例えば、概算保険料と労働者から控除した雇用保険料を始めから「法定福利費」として計上した場合、精算時には不足した分のみ計上するだけでシンプルに仕分けを行うことができますよ。
また、概算保険料を前払い費用、労働者分の雇用保険料を預かり金として計上した場合には精算時に過不足が出た分を法定福利費で調整するなどそのタイミングによって仕分け方法が異なります。
基本の勘定項目の紹介
労働保険料の会計を行ううえで理解すべき勘定項目は下記の3つとなります。
①法定福利費
労働保険料は「法定福利費」に仕分けされます。法定福利費とは法律で定められた社会保険の項目で、健康保険料や厚生年金保険料も該当します。
②預かり金
労働保険料のうち雇用保険料は毎月の給与もしくは賞与から労働者負担分を控除し会社が預かっている状態です。年度更新の際、まとめて納付をしますので「預かり金」として仕分けされます。反対に労働者負担分を会社が支出する時は「立替金」として仕分けされます。
③前払い費用
労働保険料のうち概算保険料は1年分の保険料を前払いするかたちになります。そこで概算保険料は「前払い」の項目として仕分けをし精算を行う際に「法定福利費」として仕分けを行います。
労働者側も押さえておきたい!労働保険のポイント
これまで会社側を主体として労働保険とはどういうものなのかを説明してきましたが、会社に雇われている労働者の立場からも労働保険とはどんなものなのかを説明致します。
労働保険をしっかりと押さえておくことで「もしも」という時の備えにもなりますよ。労働者側も加入条件の把握や業務中・通勤中に怪我や病気をしてしまった場合にどんな手続きが必要になるのか事前にしっかりと把握しておくと安心です。
パート・アルバイトの労働保険加入条件
労働保険とは、労災保険と雇用保険の総称です。このうち労災保険は、正社員だけでなくパート、アルバイトとして労働保険の適用事業所に雇われていれば対象者となります。労災保険料は会社が全て負担してくれますので労働者が支払う心配はありません。
もう一つの雇用保険には加入条件がありますので、下記に該当した場合は雇用保険の取得の手続き並びに給与からも保険料が控除されることとなります。
〈雇用保険の加入条件〉
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上引き続き雇われる見込みのある者であること
上記2つに該当し雇用保険に加入している事業所で働く者は、パートやアルバイトも含め原則対象となります。
パート・アルバイトを掛け持ちしている場合は?
パートやアルバイトの場合、他社と掛け持ちをしている方も多いでしょう。そんな場合の労働保険はどうなるのか心配になってきますよね。労災保険の場合は、労働保険の適用事業所で掛け持ちのパートやアルバイトを行なっている場合も対象となります。例え、1ヶ月の短期間アルバイトであっても対象となるのです。
雇用保険に関してはひとつの事業所のみでの加入となるため掛け持ちをしている場合には、加入条件を満たす一方の会社(生計を維持するために必要な主たる賃金を受け取る会社)でのみの加入となるのでご注意ください。
労働保険番号とは?どのような時に必要?
会社が労働保険に加入すると労働保険番号がふられます。この労働保険番号が働く側にも必要となる場合があるのをご存知でしょうか。例えば、業務中または通勤中に怪我や病気になり病院にかかった際、療養の給付を受けるときにこの番号が必要となります。
注意して頂きたいのが、業務中・通勤中の怪我や病気で健康保険証を提示してしまうと自己負担が発生し返金手続きや労働災害への切り替え等後で手続きが複雑になります。
また、労災保険対応の病院であることも重要です。会社で労災の手続き書類などを作成してくれる場合は番号を把握する心配はないかもしれませんが、個人で申請する場合は必要となります。
社労士と労働保険事務組合、どちらがおすすめ?
これまで、労働保険とはどんなものなのか、加入手続きや保険料の計算方法や申告納付について説明をしてきました。しかし、書類そのものを作成したり保険料を計算することはやはり難しかったり不安と思われる事業主の方も多いでしょう。
もし手続きに不備があったら、間違った保険料を納めていたら…そんな時はプロに任せるのがおすすめですよ!
労働保険に関わる手続きをプロに任せよう!
労働保険の加入から年度更新の申告納付並びに労災保険、雇用保険の手続き事務きなど労働保険に関わる一連の手続きを会社から委託受けて行うことができるのは、社会保険労務士や労働保険事務組合です。両者共に労働保険のプロフェッショナルなので煩雑で細かな労働保険の手続きを的確に行なってくれます。
事業主はただでさえ経営だけでも大変なので、こういった細かな作業はプロに任せると肩の荷もおりますよ。
労働保険事務組合とは?
社会保険労務士は知っていても労働保険事務組合って何?と思われる方も多いでしょう。こちらでは、労働保険料事務組合についてご紹介致します。
労働保険事務組合は、会社の委託を受けて会社の労働保険に関する一連の手続きを行える厚生労働大臣の認可を受けた中小事業主等の団体のことです。業種によって定められた従業員数以下の規模の会社であれば労働保険事務等の委託が可能となり、委託している会社の多くは中小企業です。
〈労働保険事務組合に委託するメリット〉
- 労働保険に関する一連の手続きを委託できるので手間が省ける
- 年度更新で労働保険料を納める際、保険料の金額に関係なく3回の分割納付が可能
- 労災保険の特別加入の手続きが可能
労働保険料は概算保険料が40万円以上ないと分割納付することができませんが事務組合に委託することによって金額に関係なく3回に分けて納付をすることができます。
社労士に頼むメリット
社会保険労務士に委託する場合は、労働保険関連の全ての手続きを委託することもできますし面倒な年度更新のみの手続きなどを単発で依頼することも可能です。全部頼むとお金が掛かってしまうので出来るものは会社で行い、煩雑で細かな作業だけ社労士に依頼することで経費削減にも繋がります。
また、社労士は労働保険だけでなくその名の通り社会保険のプロでもありますので社会保険の一連の手続きも可能なので幅広く会社をサポートしてくれますよ。
まとめ
労働保険は雇用関係の基本!雇用者も労働者も確認を
労働保険とは、労働者が業務中・通勤中に怪我や病気をした際に療養の給付などを受けられる労災保険と労働者が失業した際に新しい職が見つかるまで一定額の給付金などを受け取れる雇用保険の総称です。
会社は労働者が働くことで利益を生むことから労災保険は全額会社負担となっています。労働者の雇用の安定にも繋がり、会社ももしもという時にサポートしてくれる労働保険は雇用関係の基本ですね。
従業員を雇い入れ、労働保険の加入条件に該当している会社でまだ加入していない事業所は今すぐ加入手続きを始めましょう!
この記事を監修した社労士
ドラフト労務管理事務所 - 大阪府大阪市東成区中道
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社労士事務所によって強みは異なりますので、会社の要望に合うサービスがあるかチャットで見積もり内容を相談することができますよ。
あなたにピッタリの社労士をみつけよう
チャットで見積もり内容を確認しあなたにピッタリの社労士を見つけてみましょう。いつも大変で煩雑だった労働保険の年度更新の手続きを今年は社労士に任せて手間を省いてみませんか?プロに任せることで今まで知らなかったことも確認できますよ。