あなたが起業をし、会社設立を検討しているとしたら、また個人事業主で事業拡大のために法人化をしようとしているとしたら、社会保険についてきちんと理解する必要があります。
今回は社会保険の基礎的な知識や法人の社会保険加入義務や社会保険料の負担額、加入手続きについてご説明していきます。
社会保険とは?
社会保険とは、社会保障制度のひとつで、会社と従業員がともに保険料を支払い、病気や事故、出産などの際に保険として一部を保障するものです。日本では、健康保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の4種類の社会保障制度があります。この4種類の社会保障制度について詳しく説明します。
健康保険
健康保険とは、怪我や病気、出産、死亡等への保障をする医療保険です。日本は国民皆保険制度を採用しており、怪我や病気などの事態が生じた場合に、治療費やその他の費用の一部を国や自治体が負担してくれます。会社が健康保険証を発行してくれた経験がある方もいらっしゃると思います。
給与明細の社会保険料控除額を見て、額に驚いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、控除された額とほぼ同額(正確にいうと、同額+子ども子育て拠出金)を会社が負担してくれていたのです。御自身が今度社長として法人を成す場合、週30時間以上勤務する従業員に支払う給与額を考える際には、この社会保険料(雇用保険料は少額ですのでここでの考慮は不要)の額を考慮し、従業員の手取り額と、会社負担の社会保険料がどの程度発生するのか知っておくと後の人件費管理に有用です。
また、会社を社会保険適用事業所とする際には、社労士に手続きをしてもらうと円滑です。
なお、個人事業主の場合には、「国民健康保険」「国民年金」への加入となります。国民健康保険(略称“国保”)と健康保険(協会けんぽや健保組合、ここでは“社保”と略称を用います)の大きな違いは、「社保は傷病手当金があるけれど、国保は傷病手当金がない。」という点です。傷病手当金についての詳細は、ここでは触れませんが、会社が社会保険適用事業所となった暁には、従業員さんにそのことをアピールし、ありがたみを感じて頂いてください。
厚生年金保険
厚生年金保険とは、民間企業に勤める人が加入する公的年金です。老後の生活や死亡に備えるための保障制度で、積み立てた金額に応じた年金を老後に受け取ることができます。また、病気や怪我で障害が残った場合には障害年金、加入者本人が死亡した時には遺族に対して遺族年金などが支給されます。
社長として気にすべき点は、うつ病等で障害年金を受給したくなった従業員さんが生じた際、社長が社会保険料の負担を重荷に感じて未加入であった場合や未加入の期間があった場合にハイリスクが生じます。具体的には、初診日に厚生年金に入っていない場合、障害厚生年金の要件を満たさない(他にも要件は沢山あり、審査も厳しいですが)ため、その従業員さんから訴えられかねない、ということです。ですから、きちんと要件通りに厚生年金の加入を意識しておかなければいけません。
なお、自営業者の人や無職の人、民間企業に勤めているが勤務時間が短く厚生年金保険の加入対象ではない人は「国民年金」に加入します。
雇用保険
雇用保険とは、労働保険の1つで、労働者の安定した雇用や就業の促進を目的とする保険制度です。
例えば、いわゆる失業保険といわれる、失業した際に一定期間受け取ることができる「求職者給付」が挙げられます。そのほか、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講した場合に支給される「教育訓練給付」、育児や介護で休業する場合に支給される「育児休業給付」「介護休業給付」なども雇用保険の給付もあります。
雇用保険には対象となる賃金と対象にならない賃金がありますが、対象となる総額の0.3%(平成31年度)で、平成30年度の料率を維持しています。0.3%なので、額としては控除されても負担が少ない額ですが、社会保険との違いは、社保はほぼ同額を会社が負担していますが、雇用保険については、一般の事業においても事業主が従業員の2倍である0.6%を負担していることです。それでも、社会保険と比べたらインパクトは少なめの額です。
労災保険
労災保険とは、労働保険の1つで、仕事中や通勤途中に起きた事故や災害が原因とされる病気・怪我・障害・死亡などに対して保障を行う保険制度です。
給付の受給方法は病院を受診費用を国が負担したり、年金や一時金を支給するものになります。労災保険は社会保険の中で唯一労働者の保険料負担がなく、会社が全額負担します。
労働者を一人でも雇用していれば、原則として業種・規模の如何を問わず労働保険の適用事業となり、事業主は成立(加入)手続を行い、労働保険料を納付しなければなりません。社会保険・雇用保険と異なり、週〇〇時間以上等の基準ではないので、週20時間未満勤務のアルバイトの雇用の際にも入る必要がある点注意が必要です。
法人の社会保険への加入義務
社会保険の適用を受ける事業所を適用事業所といいます。そして適用事業所には法律によって加入が義務づけられている強制適用事業所と、任意で加入する任意適用事業所の2種類があります。
強制適用事業所
事業主や従業員の意思に関係なく、健康保険・厚生年金保険への加入が法律で義務付けられている会社になります。対象の会社は一定の事業を行い常時5人以上の従業員を使用する事業所または常時、従業員を使用する国、地方公共団体又は法人の事業所と定められています。つまり、法人の場合は事業の種類に関わらず、1人でも雇用していれば社会保険への加入義務が発生します。社長1人の会社であっても、“社長がその会社から報酬を受けているのであれば“加入義務があります。
任意適用事業所
強制適用事業所とならない事業所で厚生労働大臣の認可を受け健康保険・厚生年金保険の適用となった事業所のことです。会社で働く人の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けると適用事業所になることができ、働いている人は全員が加入することになります。
個人事業主の加入義務は?
個人事業主であっても常時雇用する従業員が5人以上で下記の業種以外の場合、社会保険への加入が必要となります。
ただし、個人事業所で以下の業種の場合には、従業員数に関わらず、任意適用事業所になり、5人以上使用していても、社会保険の加入義務はないということになります。
- 農林水産業
- 飲食業
- 旅館・その他の宿泊所
- 洗濯・理美容・浴場・写真等個人サービス業
- 映画・娯楽業
- 法律・会計士・税理士事務所等その他のサービス業
法人でも社会保険に加入しなくてもよい場合
法人の場合、原則社会保険の加入義務がありますが、例えば役員のみの会社で法人から労務の対償として報酬を受けていない場合は加入する被保険者がいないため加入義務の対象外となります。
会社が負担する社会保険料の金額
では会社が負担する社会保険料の金額はどのくらいになるのでしょうか。保険料率は年度によって変動があり、健康保険については会社が加入する健康保険の種類によっても異なります。
社会保険料は会社と社員で折半
平成31年4月時点の東京都における社会保険料率を表にまとめました。なお、健康保険と厚生年金保険の料率は都道府県ごとで異なります。また、従業員が40歳になると、介護保険第2号被保険者に該当するようになり、介護保険料も加えて支払う必要が出てきます。
保険 | 従業員の負担(%) | 会社の負担(%) | 合計(%) |
健康保険
(協会けんぽ・東京) |
4.95(40歳~64歳は5.815) | 4.95(40歳~64歳は5.815) | 9.90(40歳~64歳は11.63) |
厚生年金 | 9.150 | 9.150 | 18.300 |
雇用保険
(一般の事業) |
0.3 | 0.6 | 0.9 |
労災保険
(その他各種事業の場合。業種により異なる) |
0 | 0.3 | 0.3 |
合計 | 14.4(40歳~64歳は15.265) | 15(40歳~64歳は15.865) | 29.4(40歳~64歳は31.13) |
実際に負担する社会保険料の金額は?
会社が東京都にあり、従業員Aさんの月収が30万円の場合、支払う保険料は以下の表のようになります。
保険 | 従業員の負担額(円) | 会社の負担額(円) | 合計額(円) |
健康保険 | 14,850(40歳~64歳は17,445) | 14,850(40歳~64歳は17,445) | 29,700(40歳~64歳は34,890) |
厚生年金 | 27,450 | 27,450 | 54,900 |
雇用保険 | 900 | 1,800 | 2,700 |
労災保険 | 0 | 900 | 900 |
合計 | 43,200(40歳~64歳は45,795) | 45,000(40歳~64歳は47,595) | 88,200(40歳~64歳は93,390) |
社会保険に加入するメリットは?
社会保険に加入するメリットとしては、給付や制度等の処遇が充実している点です。例えば社会保険には扶養の制度があり、一定の要件を満たせば家族を保険料負担なしで扶養に加入させることができます。一方で、国民健康保険には扶養制度自体がありません。
また、年金で比較すると、国民年金より厚生年金の方が将来もらえる年金額が多くなります。傷病手当金など働けなくなった期間に一部保障が受けられる制度が社会保険にはありますが、国民健康保険には制度がありません。
会社設立の際の社会保険加入の手続きまとめ
会社設立の際の社会保険加入にはどのような手続きを以下の表にまとめました。
保険 | 提出先 | 届出の名称 | 期限 |
健康保険(協会けんぽの場合) | 管轄の年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 設立から5日以内 |
厚生年金 | 管轄の年金事務所 | 健康保険・厚生年金保険新規適用届 | 設立から5日以内 |
労働保険 | 管轄の労働基準監督署 | 労働保険保険関係成立届 | 設立から10日以内 |
雇用保険 | 管轄のハローワーク | 雇用保険適用事業所設置届 | 設立の翌月10日まで |
それぞれの役所に提出する書類は下記の通りです。
年金事務所に提出する届出
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 健康保険・厚生年金保険任意特定適用事業所申出書/取消申出書(任意適用事業所の場合)
ハローワークに提出する届出
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
労働基準監督署に提出する届出
- 労働保険保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
まとめ
いかがでしたでしょうか。社会保険の基礎的な知識や法人の社会保険加入義務や社会保険料の負担額、加入手続きについて説明しました。会社を設立する際には社会保険についてきちんと把握をして、必要な手続きをするようにしましょう。
この記事を監修した社労士
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