自治会の運営を安定させたいのであれば、法人化を検討してみましょう。法人化することによって、名義変更などの面倒な手続きが不要になり、活動の発展につなげていくことができます。
ここでは、法人化の形態や法人化することによって得られるメリット、法人化するときに必要な要件や手続きなどを解説していきます。よく出る疑問などにも答えていくので、法人化に迷ったときの参考にしてみてください。
この記事を監修した税理士
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
自治会を法人化する目的
自治会を法人化する最大の目的は、「不動産など地域の資産を団体名義で登記すること」です。 というのも、従来は団体による登記が認められておらず、代表者が個人名義で登記していたことにより、相続における財産トラブルが社会問題となっていました。そのような問題を解消するため、平成3年に地方自治法を改正し、自治会の法人化を可能にすることで団体登記を出来るようにした背景があるのです。
さらに自治会を法人化によって、以下のような他のメリットも生まれました。
地域の資産管理ができる
これまで自治会が所有する不動産などの資産は、個人名でしか登記することができませんでしたが、法人化が可能になったことで、自治会名義で地域の資産管理ができるようになりました。
自治会名義で不動産登記しておけば、代表者が変わるたびに登記変更する必要がなくなり、資産管理が安定します。財産上の様々なトラブルも未然に防ぐことができるため、組織を安定して継続していくことができます。
社会的信用が増大する
法人化することで社会的信用が増し、行政から補助金を受けたり、外部の支援者から寄附を受けやすくなったりするなど、金銭面で様々なメリットを得られます。
補助金や寄附を受けることができれば、より大きな事業を行うことができ、地域の発展に寄与することができます。
地域活動の幅が広がる
法人格がない組織の場合、事業が失敗したときに組織の代表が大きなリスクを負うデメリットがあります。代表にかかる負担が大きいことからリーダーの確保がしづらくなり、組織の弱体化につながっていってしまいます。
その点、自治会を法人化すれば責任の所在が法人になるため、代表者の負担が軽減され、安心して組織の経営を担っていくことができるのです。結果として活動が継続しやすくなり、地域活動の発展や活動の拡大につながります。
また、法人化によって団体名義の登記や契約が行えるようになるため、事業の幅が拡大し、地域の多様なニーズに応えることが可能になります。
法人の種類
一口に法人といってもその種類は様々です。法人は以下の4種類に分けることができます。
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どの法人格が適しているかは、組織の性格や取り組みたい事業によって異なるのです。自分たちに最も適した法人格を選ぶことで、組織の発展や経営がスムーズになります。
各法人の特徴について、下記の項目でより詳しく説明していきます。
認可地縁団体
認可地縁団体とは地方自治法等に定められた要件を満たし、必要な手続きを経て法人化した自治体のことで、もっともポピュラーな形態となります。
自治会や町内会といった地縁による団体が市町村長の認可を受けて法人格を取得することにより、不動産等を団体名義で所有し、登記等ができるようなります。
認可地縁団体の許可を受けるためには、いくつかの要件を満たさなければなりません。詳しくは大見出し3の「法人化の要件」で説明します。
NPO法人
NPO法人は社会貢献活動を主な目的としている法人のことで、「特定非営利活動法人」とも言います。
NPO法人の活動内容は「NPO法(特定非営利活動促進法)」によって定められており、このNPO法で定められた活動以外を行なう場合は、NPO法人を設立することはできません。
NPO法で定められているNPO法人の活動内容は以下の20分野です。
- 保健、医療又は福祉の増進を図る活動
- 社会教育の推進を図る活動
- まちづくりの推進を図る活動
- 観光の振興を図る活動
- 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
- 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
- 環境の保全を図る活動
- 災害救援活動
- 地域安全活動
- 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
- 国際協力の活動
- 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
- 子どもの健全育成を図る活動
- 情報化社会の発展を図る活動
- 科学技術の振興を図る活動
- 経済活動の活性化を図る活動
- 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
- 消費者の保護を図る活動
- 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡助言又は援助の活動
- 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市が条例で定める活動
NPO法人の中でも、都道府県や政令市によって一定の基準を満たしていると認められたNPO法人は「認定NPO法人」にステップアップすることができ、高い税制優遇措置が適用されます。
一般社団法人
一般社団法人とは、営利を目的としない非営利法人のことで、社員が2名以上いれば設立できます。非営利という点ではNPO法人と同じですが、一般社団法人とNPO法人では事業内容や設立手続きなどが大きく異なるのです。
NPO法人の場合、法律に定められた範囲内の事業しか行なうことができませんが、一般社団法人の事業内容には制限がありません。そのため、自由で自律的な活動が可能となります。
一般社団法人なら設立までの手続きも容易です。他の法人を設立するときのように、都道府県や市町村による許可や認証が必要ないため、約1~4週間もあれば設立できてしまいます。
株式会社・合同会社
株式会社と合同会社はどちらも利益を得ることを目的とした営利団体です。
株式会社は「稼ぐ組織」として発展させやすい法人になるため、事業を拡大していきたい場合に適しています。一方、合同会社は出資額の大小によらず1人1票が与えられるため、全員が平等な立場で経営することが可能になります。
ただし、非営利目的で法人化する場合は、このふたつの形態はお勧めできません。というのも、こうした法人は法人税がかかってくる他、社会保険への加入義務や維持にかかる事務作業・費用がかかり、コストがかかりすぎてしまうためです。
営利目的でない組織の法人化を検討しているなら、認可地縁団体など他の法人格を選びましょう。
地縁団体の法人化の5つの要件
地方自治法では地縁団体の認可を受けるための要件を定めています。
認可を受けるためには、次に紹介する要件をすべて満たさなければなりません。ひとつでも欠けていると法人化することができないので注意が必要です。
法人化の要件①
「地方自治法第260条の2第2項第1号:地域的な共同活動を行うことを目的とし、現に活動していること」
法律で定める「地域的な共同活動」に該当するのは、具体的に以下のような活動です。
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法人化の要件を満たすには、過去2年以上の活動実績が必要になります。ただし、スポーツ活動や環境美化活動など、特定の活動だけを目的とした団体やその活動などは対象外となります。
法人化の要件②
「地方自治法第260条の2第2項第2号:地縁による団体の区域が住民にとって客観的で明らかになっていること」
「客観的に明らか」とは、河川や道路等で区域が画されている等、構成員以外の人が見ても明らかな形で境界が画されている状態を指します。
法人化の要件③
「地方自治法第260条の2第2項第3号:その区域に住所を有するすべての個人が構成員になることができ、その区域の住民の相当数が構成員となっていること」
「すべての個人」とは区域に住所を有する人という意味で、年齢・性別等は問われません。地縁団体の構成員は個人でとらえるため、表決権も世帯単位ではなく個人単位となります。世帯単位を構成員とすることは認められないので注意しましょう。
また「相当数」とは、当該区域の住民の過半数以上と捉えるのが一般的です。
法人化の要件④
「地方自治法第260条の2第2項第4号:団体の目的や構成員の資格等を規定する規約(会則)を定めていること」
法人化するには、以下の事項を定めておく必要があります。
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上記の項目は必ず定めておかなければなりませんが、上記項目以外に必要事項を定めること自体は問題ありません。
法人化の要件⑤
「地方自治法第260条の2第2項第1号」の定めるところにより、不動産を所有しそれを団体登記することが求められます。
不動産などを保有する目的がない地縁団体は原則、法人化の取得が認められていません。ただし、現時点で不動産を所有していなくても、認可申請後に不動産等を確実に保有すると見込めると判断されれば、許可の対象となります。その場合は、認可申請する際に保有資産目録(または保有資産予定目録)の提出が必要です。
法人化に係る手続き
法人化申請には早くても半年程度の時間がかかります。場合によっては数年かかることもあるので、スムーズかつ早めの手続きが必要です。
手続きの流れと必要書類を事前に把握し、早めに準備を進めていきましょう。
手続きの流れ
法人化するには市長による認可・告示が必要です。手続きの大まかな流れをまとめると以下のようになります。
①自治会内における協議 → ②行政(市役所など)へ事前協議 → ③規約案等の作成
→ ④総会での議決(・規約の改定・代表者、構成員の確定・保有する資産の確定) → ⑤申請書類の作成と提出→ ⑥行政における審査 → ⑦認可の告示 |
法人化するにあたり、まず最初は自治会で法人化の話し合いを行いましょう。規約を作成する前に、市役所自治振興課の担当職員や市民活動支援センターなどと事前協議をすることになります。
事業・組織案が具体化されれば、総会を開いて代表者や構成員などを決定します。代表者の決定ではなく、必ず総会での議決が必要です。
手続きに必要な書類
市区町村によって必要な書類は変わってきますが、一般的に以下のような書類が必要となります。
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上記書類は総会での決議後、市役所自治振興課の窓口へ認可申請を行なう際に必要です。この書類をもとに審査が行なわれ、市が許可・告示します。
許可申請をするのは地縁団体の代表者で、許可された際の通知は代表者あてに送られます。
審査が終わって許可されるまで2週間〜1か月程度かかるのが一般的です。書類に不備があったり、内容に問題があったりすると許可が出るまで時間がかかるので注意しましょう。
自治会の法人化 Q&A
自治会の法人化に関する疑問点をそのままにしておくと、手続きを進めていく際に問題が生じてしまいます。わからないことがあれば自治体に問い合わせるなどして、事前に解決しておきましょう。
自治会を法人化する際によく出る疑問点を以下にピックアップしてみました。
複数の地区に分かれている自治会で地区を単位に法人化できる?
法人化できる自治会は、「町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体」と定められています。(地方自治法第262条の2第1項)
そのため、一定の区域に住所を有するだけでは、法人化の対象とはなりません。「地縁による団体」が原則条件です。この条件と前述した要件を満たしていれば、法人化は可能です。
住所以外の加入条件が付される団体(婦人会、老人会、青年団など)、限定的な目的のための組織(スポーツ同好会など)は対象外となります。
赤ちゃんも構成員になるの?
議決権の原則は個人となっており、これは赤ちゃんも含まれます。
構成員になれるのは住民個人なので、年齢や性別などは問われません。赤ちゃんや未成年、外国人もすべて構成員となることができます。
ただし、規約によって構成員の条件を定めることができるため、実際に赤ちゃんを構成員にするかどうかは行政との相談となるでしょう。
自治会を法人化するまとめ
自治会の法人化についてお伝えしてきました。 非営利目的の法人化であれば認可地縁団体がオススメです。
法人化にはいくつかの形態やそれに係る手続きが必要です。煩雑でわかりづらい点もありますが、代表者が個人で資産を登記するという負担がないぶん、成り手も増えるというメリットがある他、社会的信用の増大によってその他の地域活動もやりやすくなります。
地域の将来のことも考えて、自治会の法人化、一度検討してみてはいかがでしょうか。
監修税理士のコメント
安田亮公認会計士・税理士事務所 - 兵庫県神戸市中央区元町通
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