喪服を着る機会は突然訪れるものです。
一定の年齢になると、肉親や配偶者の葬儀に直面することも出てきます。喪服の装いについて、今一度、見直してみませんか。
喪服の装いは、故人との関係によって装い(格)が異なります。現代は洋装が一般的ですが、日本人のもっとも格の高い喪服は着物。
喪服を着物で準備する際の基本的な知識とマナーについて解説します。
喪服の着物の基本知識
大切な人のお葬式に着物の喪服を着ることで、故人への敬意や思いの深さが無言のうちに伝わります。和装の機会自体も減る今、慣習やルールが求められる着物の喪服について、まずは基本の知識からおさらいしましょう。
着物の喪服は第一礼装
着物の喪服は喪の第一礼装、いちばん格の高い装いとなります。中でも家紋の入った黒無地の着物、黒紋付は未婚・既婚を問わず着用できる最高礼装です。
あなたが喪主の場合や、故人が父親や母親などの肉親、配偶者である場合、五つ紋の黒紋付がもっともふさわしい服装です。どんなに高価なブランド品のワンピースを着ても、洋装より和装の方が格上。
とはいえ、和装には一定のルールがあるため、間違った喪服の選び方や着方をしては台無しです。ドレスコードがあいまいな洋装のほうが無難で楽なことは確かです。
黒喪服と色喪服
着物の喪服にはどういった種類があるのでしょうか。喪服には黒喪服と色喪服があります。黒喪服は文字通り黒無地で、家紋の付いた黒紋付と呼ばれる着物です。
喪主や遺族は五つ紋の黒紋付、参列者は一つ紋または三つ紋入りが一般的です。色喪服は寒色系に染められた無地の着物で、法事やお別れの会などの際に着用します。
地紋はないか、入る場合は慶事の文様は避け、「波紋」や「雲取り」などの文様を選びます。色喪服は喪主や遺族は三回忌から着用するのが一般的ですが、地域やご家族の考え方に合わせるのがよいでしょう。
着物の喪服の歴史
女性の着る喪服の定番色が黒になったのは明治時代からです。それまでは白喪服という喪服がありました。女性は婚礼の際に着た白無垢を残しておき、夫が亡くなった時に袖を詰めて着用したのです。
今でも葬儀の時に、白喪服や白い裃(かみしも)を着用する地域があります。明治維新以後、欧米の慣習にしたがって、黒の喪服が着られるようになり、白より汚れの目立たないこともあり、一般にも浸透しました。
喪服の種類と着る間柄、場面、マナー
着物の喪服が格式高いとはいえ、故人との間柄やシーンに応じたマナーがあり、間違えるとかえって失礼になる場合も。喪服には格式によって種類があり、それぞれの特徴とマナーについて学びましょう。
喪服には3つの格式がある
喪服は格式に応じて正喪服、準喪服、略喪服の3種類の呼び方をします。和装の正喪服は五つ紋の付いた黒紋付をさし、喪主をはじめ遺族や親族が着用します。準喪服は無地の三つ紋または一つ紋付きの着物をさし、喪主以外の遺族や親族、親しい間柄の人が着ます。略喪服は寒色系の無地に一つ紋または三つ紋の着物で、急な弔事で訪れた弔問客や一般的な会葬に出席する際、または三回忌以降の法事で着るとされます。
黒無地の染め抜き5つ紋は三親等まで
五つ紋の付いた着物は、格の高い正式な礼装のため、一般には三親等の間柄までとされます。どんなに故人と親しくても、親族でない者が喪主や遺族より格の高い服装になってしまうのはなるべく避けたいもの。参列者は格を下げて三つ紋または、一つ紋の着物に黒の帯を合わせるのが礼儀です。
通夜から法要までの適切な喪服
一般的には通夜には準喪服・略喪服。葬儀・告別式、初七日、四十九日、一周忌までは正喪服または準喪服を着るとされます。かつては、訃報を聞いて駆けつける通夜の場面で準喪服を着ると、亡くなる準備をしていたようで失礼にあたるとされてきました。
が、お通夜のみに参列する方も増えた昨今は、お通夜での準喪服の着用は一般的になっています。なお、親族以外の参列者で準喪服・略喪服の和装は少なくなり、状況しだいで浮いてしまうことも。また、地域による文化の違いが出やすいので、詳しくはその地域の呉服店などに確認するのがおすすめです。
喪服の着物のマナー
喪服の着物を着用するとき女性の場合、髪飾りや帯留めは不要です。結婚指輪以外の指輪は外します。また、着物の喪服に羽織は着用しません。喪服用の着物コートはありますが、室内では必ず脱ぎます。メイクも喪服の時は「方化粧」といい、口紅や華やかなネイル、光沢のあるグロスやアイシャドーは避けましょう。
喪服の着物の準備
着物の喪服を着用する場合は、購入する方法とレンタルする方法があります。かつては、喪服を誂えて、娘が嫁ぐ際に持たせることもありましたが、現代はごく一部でしょう。購入とレンタル、それぞれの特徴とメリット・デメリットについて解説します。
嫁入り道具として
かつては嫁入り道具として着物の喪服を誂え、娘が嫁ぐ際に持たせるのが主流でした。現在も地域によっては、五つ紋の喪服を持たせたり、19歳の厄除けに黒紋付を作る風習のある地方もあるそうです。もしもの際に急に必要になる喪服を持っておくと助けになりますが、現代の住宅事情では小物を含めると場所を取り、保管にも気を遣います。
着物の喪服をレンタルする
喪服の着物をレンタルする場合は、貸衣装店が多いほか、呉服店のレンタルサービスも利用できます。ネットで気軽に注文できるショップも増えました。レンタル料金の相場は小物一式込みで2万円前後。
遺族の場合は、葬儀屋さんに相談して紹介してもらうのもスムーズです。レンタルの場合は、直接肌につける肌着や足袋は別途、購入しなくてはならないので注意しましょう。なお、喪服は柄がない分、並んで座った時の色合いや素材の差がはっきり出るとも言われています。
着物の喪服を自分で購入する際の注意点
着物の喪服を購入する場合は、百貨店や呉服店で選ぶほか、ネット通販で購入することもできます。価格には幅があり、仕立て上がりなら10万円前後。反物から仕立てる場合は、正絹の生地だと30万円〜50万円ほど。
気をつけたいのは、季節ごとに素材が決まっていること。オールシーズンで着用するには、夏用、冬用の両方を、本格的には袷・単衣・絽の3パターンを用意する必要があります。
喪服の着物の季節と素材
着物の喪服は、他の着物と同様、季節やシーンによって種類が違い、使い分けが必要です。喪服に限らず、基本知識として知っておきたい着物の素材の種類と、その場に合った格の違いもおさらいしましょう。
袷(10月~5月)
生地を2枚縫い合わせた、裏地のある着物を袷(あわせ)と呼びます。10月から翌年5月頃までの、暖かい時期以外に着ることのできる着物です。和服の大半はこの袷です。
単衣(6月と9月)
季節の変わり目によく着られるのが単衣(ひとえ)です。裏地がない分、軽くて涼しいのが特徴。最近では単衣を持たず、袷と絽の2種類を揃える人も多いようです。
絽(7月と8月)
透けるように薄い素材で作られた夏用の着物が絽(ろ)です。もっとも薄く涼しいため、暑い時期の葬儀には欠かせません。単衣を持たない場合は、6月後半〜9月の前半まで絽を着用し、季節を先取りする着方にするのがポイント。
羽二重・縮緬
東京を始めとする関東地方では、喪服の素材に羽二重(はぶたえ)を使い、関西では縮緬(ちりめん)が使われます。関東では明治時代の欧米化政策の影響で、サテンの生地に負けない張りがあることで好まれたそう。表面に縮みのある縮緬はしなやかで着心地がよいのが特徴で、現代では縮緬のほうが主流となっているようです。
小紋・紬
正式な場所でなく、普段着やおしゃれ着として着用できるのが小紋や紬など。小紋は全体に同じ模様のある着物、紬は色糸から織られた絹織物で、格子や縞などの模様があります。これらの織物は喪服に使われることはありません。
着物の喪服の帯について
着物の喪服には、ルールに合った帯を組み合わせます。どのような種類があり、締め方はどうするのでしょうか。帯についてまとめました。
喪服の帯の特徴
喪服に締める帯は、黒共帯(くろともおび)もしくは黒喪帯(くろもおび)と呼ばれる名古屋帯で、紋付同様に黒一色に染められています。
織りは法相華(ほそうげ)などの紋織りで、素材は緞子(どんす)や繻子(繻子)で作られています。帯締めは黒の平打ちか丸くげです。法事などで色喪服を着用する際には、喪服に合った紺や灰色の色喪帯(いろもおび)を使用します。
喪服の帯の締め方
喪服の帯は、二十ではなく一重太鼓で小さめに結びます。これは「不幸が重ならないように」との理由から。
喪服の家紋
着物の喪服には、必ずその家の「家紋」が入っているのをご存知でしょうか。家紋とは、その家を表す紋所で、庶民に広がったのは明治以降です。家紋はどこにどのように入れればいいのでしょうか。レンタルする時はどうするの? 家紋の疑問にお答えしましょう。
家紋の入れ方と格
もっとも格の高い正式な「五つ紋」は、左右の胸と両袖の背面、背筋の上の5カ所に入れます。格を下げた参列者が着用する「三つ紋」は、背筋と両袖の背面の3カ所に、一つ紋は背筋の1カ所に家紋を入れたものです。
女性が嫁入り道具として持たされた場合は実家の家紋、結婚後に仕立てた場合は嫁ぎ先の家紋を使用することが一般的。自分の家の家紋がわからない場合は、誰でも使える「通紋」を使用します。
喪服をレンタルした際の家紋
気になるのは、喪服をレンタルした際の家紋。レンタルの場合は通紋の入ったものを使用するか、着物の上から貼り付けるシールタイプの家紋を使います。
男性の着物の喪服
男性が葬儀で着物を着る際にも最低限のルールがあります。基本的なルールとマナーについて、学びましょう。
喪主や遺族の場合
喪服を着る男性が喪主や遺族の場合は、黒の五つ紋付きの羽織袴を着用します。袴は仙台平(せんだいひら)または博多平(はかたひら)。羽織の紐や鼻緒は白または黒にします。扇子は持たないように。
参列者の場合
喪服を着る男性が参列者の場合、白無地に三つ紋か一つ紋付きの羽織と対の長着を着用します。袴は履かずに、地味な角帯を締め、畳表の草履を履きます。こちらも扇子は持たないようにします。
喪服の着付けの注意点と、準備するもの
着物の喪服を着用することが決まったら、重要なのが着付け。自分で着物を着なれている方以外、何かと心配ではないでしょうか。喪服の着付けに必要なポイントをまとめました
喪服に合わせた小物
着物の喪服に合わせる半襟・長襦袢・足袋は白です。帯締めは黒の平打ちひも、草履、ハンドバッグは布製の黒無地、草履の鼻緒も黒にします。髪飾りや帯留めは不要です。
喪服を着物にした場合の髪型
和装・洋装に限らず、基本は清潔ですっきりと。ロングヘアの方はシンプルなまとめ髪にします。あまり高い位置ではない場所で髪を結び、後毛が出ないようにまとめます。慶事とは異なるので、美容院には行かずに自分でセットする場合が一般的。
喪服の着付けの注意点
基本は着崩れないようにし、肌の露出を控えるのがポイント。まずはタオルなどで体型補正をします。衿合わせは1〜1.5cmの深めに合わせ、おはしょりも短めに。衣紋(えもん)も抜きすぎないようにします。着物の丈も床すれすれにし、襦袢が見えないように。五つ紋の場合は両胸の紋の位置を左右対称になるようにします。
喪服の着付けは依頼するのがおすすめ
きちんと着付けられた着物の喪服姿は格の高さを表しますが、着なれない人の喪服の着崩れはかえって見苦しいもの。ご家族や親類に着付けができる方がいれば安心ですが、支度の時間がなく、焦って失敗しては台無しです。少しでも着付けに自信がない場合は、着付け専門のプロに依頼するのがおすすめです。
喪服の着付けを依頼するには
突然の不幸が訪れても、遺族は悲しむ間もなく葬儀の準備をしなくてはなりません。喪主や遺族の立場になり、着物の喪服を着ることになったら、出張着付けを頼むのがおすすめです。着物の喪服の着付けをプロに依頼する場合のメリットや相場、注意点についてまとめました。
出張着付けのメリット
とにかく時間に追われる葬儀の準備。美容院で着付けをするケースも多いですが、荷物の準備や往復の時間もかかる上、忘れ物をしては一大事。喪服の出張着付けを依頼すれば、着物に関することはすべて任せ、安心して他の準備をすることができます。簡単な髪のセットをしてもらえる場合も。
出張着付けの料金相場
出張着付けの相場
9,000円
標準相場
7,700円
リーズナブル
10,800円
プレミアム
着物の喪服の出張着付けの相場は、基本料金が約5,000円。このほか出張手数料や交通費がかかります。また、早朝や深夜などの営業時間外に依頼する場合は時間外料金(1000円〜3000円が目安)が発生します。おおまかに1万円前後と見ておいたほうがよいでしょう。
出張着付けを依頼するときに気をつけること
業者により、出張手数料や交通費、時間外料金の設定が違います。また、準備するものも確認が必要。和装用の半襟や裾よけ、帯枕などは販売してもらえる場合が多いですが、長襦袢などの下着は用意しなくてはならない場合も。また、担当の着付け師さんにより、着付けの仕方が違うため、相性のいい方は覚えておいて、今後は同じ着付け師さんにお願いするのもおすすめです。
ミツモアで出張着付けサービスに見積りを依頼する
ミツモアは、いろいろなサービスのプロと出会えるマッチングサイトです。プロの着付け師も多数登録されているので、自分の条件に合った着付け師を見つけることができます。
チャットで見積り内容の相談ができる
ミツモアでは、送られてきた見積もりをもとに、着付け師に直接チャットで質問ができます。疑問がすぐに解消でき、トラブルを防ぐ上でも助かるサービス。「痛くない着付けにしてほしい」「この小物は必要?」など、気軽に相談できるのもありがたいですね。
まとめ
お葬式のいちばんの目的は、亡くなった方を偲び、参列してくださった方への感謝を伝えることにあります。自分が喪主や親族側になった場合は、きちんとした格の着物の喪服を着こなすことで、故人と周りの人へ想いを伝えることができるはず。突然のお別れは辛いものですが、慌てないためにも、基本的な装いの知識を頭に入れておくことが大人のマナーといえるでしょう。