自社商品のデザインを守る権利である、意匠権。その意匠権を得るために行う手続きである意匠登録ですが、実際にどのようにすれば良いのでしょうか。
本記事では、これから自社製品の意匠登録を検討されている方のために、申請方法や必要書類、登録までの期間などを詳しくご説明。
また、意匠登録を弁理士に依頼するメリットについてもお伝えします。
デザインを守る!意匠登録とは?
意匠登録とは、製品や商品などのデザインを特許庁に申請・登録することで意匠権を得る手続きです。自社製品のデザインを法律によって保護できる意匠登録について、まずはメリットや他の知的財産権との違いなどを確認してみましょう。
意匠とは
意匠とは、製品などの物品そのものとその形・模様・色彩という要素から構成されたデザインを指します。
なお、意匠はその物品全体ではなく、物品の一部分のデザインについても認められ、これを「部分意匠」と呼びます。
意匠は特許庁への登録を行うことで「意匠権」という強力な権利を得ることができ、意匠法という法律のもとで保護されるのです。
意匠の意味については、関連記事「意匠の意味って?「デザイン」との違いも解説」もご参照ください。
意匠には「工業上の利用性」が必要
意匠としてのデザイン性としては「工業上の利用性」が求められます。そのデザインと結びつけられた製品が、工場の生産工程などで反復して量産可能であるということですね。
つまり、彫刻や絵画のような唯一無二の美的デザインは含まれないということになります。
意匠登録するメリット
意匠登録することで得られるメリットは非常に大きなものです。意匠登録をするとそのデザインの生産や使用、販売などの権利を独占することができ、意匠権を侵害した者には以下のようなペナルティを求めることができます。
- 差止請求権
意匠権を侵害しているものに対してその対象となる物品の製造や販売を禁止し、すでに製造した製品などについても廃棄を求めることができます。 - 損害賠償請求権
意匠権の侵害により本来得られたはずの利益が失われた場合にはその損害額を賠償請求することができます。 - 刑事責任の追及
意匠法を侵害したものに10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金という刑事罰を要求できるケースもあります。
なお、この意匠権は最初の登録から最長20年間にわたって権利が有効です。
意匠権と著作権・商標権の違い
意匠権は同じくデザインをに関する権利を保護する著作権や商標権とも区別がつきにくいものですが、これらには明確な違いがあります。
意匠権と著作権の違い
意匠権と著作権では保護される目的が異なるのです。意匠権が工業的に量産できるデザインを保護するのに対して、著作権では文化的な絵画などの芸術作品や音楽、思想などの表現を保護します。
営利目的で販売を行う物品のデザイン等については基本的に著作権で保護することは不可能です。
意匠権とデザイン商標権の違い
続いて意匠権とデザイン商標権についてですが、こちらは保護の対象となるものがそれぞれ異なります。意匠権が製品などの物品そのもののデザインを保護する一方で、商標権では物品と結びつけずにロゴマークや商品名そのものを保護することが目的です。
つまり、製品に使用するロゴマークなどは商標として登録するとそのロゴマーク自体は保護されますが、その製品そのもののデザインが保護されるわけではありません。
意匠権・著作権・デザイン商標権は、保護する目的に応じて何を申請するか判断することが必要です。
意匠登録をすると良いケース
意匠登録をするとそのデザインの専用権(独占的な使用権)を得られるため、経営戦略上意匠登録をした方が良いケースが多く存在します。
例えば、他社に真似をされたくない特徴的な製品のデザインを売りとした製品販売を展開したい場合は意匠登録を行うべきでしょう。
また、パソコンやスマートフォンに表示されるソフトウェアの表示画面などは、パソコンやスマートフォンに記録されたものであれば意匠登録を行うことが可能です。他のソフトウェアとの差別化を図り、ブランドイメージを構築するため、意匠登録をおすすめします。
意匠登録の手順は?事前調査から登録まで
では、意匠登録の具体的な流れについてご説明していきましょう。意匠登録の手順は、以下の通りです。
- 事前調査で登録したい意匠が既に使用されていないか調べる
- 意匠登録出願の願書を提出する
- 審査の過程で補正命令や拒絶理由通知が届いたら手続補正書等を提出し対応する
- 意匠登録が認められたら登録料を納付
- 「設定登録」で意匠権が発生
これが簡単な意匠登録の流れですが、この流れについて簡単に順を追って説明します。
事前調査で登録したい意匠が既に使用されていないか調べる
意匠の登録は、新規性(新しい独創的なデザイン)がなければなりません。そのため、出願前には類似したデザインが既に意匠登録されていないかを調べる必要があるのです。
万が一、類似したデザインが先に出願されていた場合には、後から同様のデザインを出願したとしても先に出願したしたものに意匠登録の権利が発生します。これを先願主義といいます。
実際に意匠登録したいデザインが既に登録されていないかを調べるには、特許庁の特許情報プラットフォームサービスであるJ-Platpatを利用して誰でも無料で検索することが可能です。
意匠の検索手順については、関連記事「意匠を無料データベースで検索する方法は?画像からも検索可能に!」ご参照ください。
意匠登録出願の願書を提出する
事前調査の結果、既存の登録意匠に類似したものがなければ、いよいよ意匠登録の段階です。
意匠登録のファーストステップとして、特許庁への意匠登録出願の願書を提出します。願書には意匠に係わる製品の物品名などを記載して提出しますが、意匠のデザインを記載した図面などの添付も必要です。しかし、意匠登録の出願をしたことがない人にとっては、この図面作成はかなり骨の折れる作業となります。この図面は特許庁の定めた様式に従って形態的特徴を表すように作成しますが、立体上の製品などを出願したいときには特に専門的な知識が必要です。
立方体であるサイコロをイメージすると分かりやすいですが、正面図だけではなく、上や下から見た図や左右側面図、背面の図の計6枚を同一縮尺で作成しなければなりません。願書や図面作成の詳細は特許庁ホームページを参考にしてください。
意匠の審査待ち期間は半年程度
意匠登録の願書を出願したら、審査結果が出るまで待つこととなります。通常、スムーズに手続きが進んでも審査結果が出るまでは半年ほど、審査対象となる製品や審査状況によっては1年を超える時間を要することがあります。
いずれにしても出願から意匠登録までは、気長に待つ必要があるということですね。
審査期間中に「補正命令」や「拒絶理由通知」が来たら補正対応
審査期間中に「補正命令」や「拒絶理由通知」が来たら補正対応を行わなければなりません。この審査内容については後述で詳しく説明しますが、書類の不備がある場合や意匠としての登録ができない理由がある場合などにこれらの通知が届きます。
これら「補正命令」や「拒絶理由通知」が届いた場合には、定められた期間内に「手続補正書」や「意見書」を提出して反論しなければ、自動的に出願が棄却されてしまいますので注意が必要です。
意匠登録が認められたら登録料を納付
意匠登録の審査に通過すると特許庁から登録査定の謄本が届きます。この登録査定の謄本が届いたら、送達日から30日以内に登録料8,500円を支払わなければなりません。
登録料は1年目から3年目が毎年8,500円で4年目以降が毎年16,900円となっており、特許印紙で納付する方法や専用の振込用紙を利用して銀行振込をする方法などがあります。
万が一、登録料の支払いをしなかった場合には出願却下処分となり、出願した意匠を登録することができなくなるので注意してください。
「設定登録」で意匠権が発生
登録料を納付すると、特許庁で意匠登録に向けた手続きが開始されます。これを意匠権の「設定登録」と言いますが、特許庁で登録の手続きが完了するとようやく意匠権の発生です。
出願者には「設定登録」をした日から2週間後に意匠登録証が発送され、その到着をもって「設定登録」が完了したことを把握できます。この意匠登録証には「設定登録」の完了した日付が記載されており、その日から最長で20年間意匠権が発生するのです。
意匠登録の現状は?審査待ち期間は短縮傾向?
意匠登録の出願件数は近年ほぼ横ばいで推移しています。同様に、特許庁で設定登録が完了して意匠登録に至った件数もほぼ横ばいです。また、審査にかかる期間は年々短縮傾向にはありますが、依然として半年近く時間を要するのが現状です。ここでは、特許庁が発表している特許行政年次報告書をもとに意匠登録の現状や審査待ちの期間について確認してみましょう。
意匠登録の出願・登録件数はほぼ横ばい
特許庁が発表している2018年版の特許行政年次報告書によると、意匠登録の出願件数は多少の増減を伴いながらも年間3万件超でほぼ横ばいに推移しています。また、1999年に製品などの一部分のデザインを意匠登録できる部分意匠の制度ができてからは部分意匠の出願件数も増加しており、2014年以降は出願件数全体の約40%を部分意匠の出願が占める状況です。なお、出願を受けて登録に至った件数も近年はほぼ横ばいで、多少の増減を繰り返しながらも年間3万件弱で推移しています。2017年は新たに27,335件が意匠登録されました。
意匠登録の審査待ち(FA)期間は短縮傾向に
意匠登録の出願から審査が終わるまでの審査待ち(FA)期間は年々短縮傾向にあります。2017年度の審査待ち期間の平均は5.9か月で、出願後に設定登録が完了して意匠権が発生するまでの期間は平均6.7か月です。この審査待ちの期間は年々短縮傾向にあり、2008年度には7.4か月もかかっていたものが僅か10年余りで半年を切るまでに短縮されています。
そもそもこれだけ時間がかかるのは、審査員が極めて多忙であることが原因です。年間3万件超ある意匠出願を物品の分野別に産業意匠、民生意匠、生活意匠の3分野に分けて審査を行っていますが、総勢50名ほどの審査官で全ての審査をこなさなければならないなりません。
特許庁も審査効率化へ取り組んでおり、実審査待ちの期間が短縮されていますが、依然として約半年は待たなければいけません。
そこで、事情により早期に権利化を希望する意匠については、「早期審査制度」を利用することもできます。この早期審査制度は、他社に出願しているデザインを無断で使用されるなどの緊急性を要するときに限って「早期審査に関する事情説明書」を提出することで早期審査を受けられる制度です。
意匠登録の審査は2段階!審査基準は?
意匠登録の審査は「方式審査」と「実体審査」の2段階で行われます。また、「実体審査」には要件を満たすことで審査を通過する「積極的要件」と要件を満たすと審査に通過できない「消極的要件」があります。ここからはこれらの審査方法や審査基準について詳しく確認してみましょう。
意匠登録の審査は「方式審査」「実体審査」の2段階
意匠登録の審査は「方式審査」と「実体審査」の2段階で行われます。
「方式審査」は特許庁の指定した出願書類に形式的な不備がないかどうかの確認です。万が一、不備があった場合には特許庁から手続き書類などの不備を正すように補正命令が下され、指定期間内に手続補正書を提出しなければ出願自体が棄却されるので注意が必要です。
この「方式審査」は出願書類に不備がなければ問題なく通過する審査ですが、書類作成時のケアレスミスなどには十分注意してください。
そして「方式審査」をクリアすると、「実体審査」で実際に意匠登録を行う要件を満たしているかどうかが判断されます。「実体審査」では、意匠登録の要件を満たしていないなどの判断がなされた場合に拒絶理由通知が行われます。
拒絶理由通知に対しては、意見書や手続補正書を提出することでその拒絶理由が解消できれば審査に合格することができるので、必ず指定された期間内に対応することが必要です。
この「実体審査」では積極的要件と消極的要件という2要件で審査の合否判定が行われます。
意匠登録 実体審査の積極的要件
実体審査では、出願した物品が必要な要件を満たしていなければ審査に通過することができません。これを「積極的要件」と言いますが、審査に通過するためには主に次の要件を満たすことが必要です。
- 新規性
これまでに世の中で知られていない新しいデザインであること。 - 創作非容易性
既に存在しているデザインなどから簡単に創作できないような独創的なデザインであること。 - 視覚的美観
模様や色彩を通じて、美観を感じさせるようなデザインであること。 - 工業上の利用性
冒頭でも説明した通り、工業上で量産できるデザインであること。
意匠登録 実体審査の消極的要件
積極的要件とは反対に、該当すると審査に通過することのできない要件が「消極的要件」です。消極的要件は多数存在しているので、そのうち主なものを2つ紹介します。
- 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠
公の秩序や風俗を乱す公序良俗に反するものは意匠として認められません。 - 物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠
物品の機能を確保するために不可欠な形状はデザインではなく特許法や実用新案により保護されるべき技術的な創作物です。
これを意匠法で保護すると意図しない独占などが発生し、正常な市場競争の環境を歪めてしまう恐れもあるために意匠では登録できません。
他の消極的条件に該当しないかどうかは、特許庁のホームページを参照するか、専門家である弁理士に依頼して確認してください。
意匠登録は弁理士に依頼しよう
意匠登録を出願する前には類似した意匠の検索を入念に行わなければなりません。また、出願する前には意匠登録だけで経営戦略にかなった知的財産の保護ができるのかどうかも検討が必要です。
さらに、意匠登録の手続きは想像以上に手間も時間もかかる大仕事で素人にはなかなか難しい面も数多くあります。このような意匠登録を弁理士に依頼してみてはいかがでしょうか?
弁理士なら出願前に意匠登録の可否を判定してくれる
意匠の登録で最初に困るのは登録可否の判定です。素人では、意匠登録の要件を満たしているのかどうかを判断するのは簡単ではありませんが、プロの弁理士は豊富な知識や過去の経験をもとに入念な調査に基づいて意匠登録が可能かどうかをアドバイスしてくれます。
意匠登録できる場合でも登録することでメリットがあるのかどうか、全体の意匠ではなく部分意匠で登録した方が有利になるのではないか、という判断の手助けもしてもらえるのは非常に心強いですよね。
また、知的財産権のプロである弁理士は商標権や特許権などの知的財産にも精通しているため、意匠登録だけでは守り切れない権利に関しても様々なアドバイスをしてくれるので非常に頼りになります。
弁理士なら出願書類作成から拒絶時の対応までサポート
弁理士に依頼すれば、意匠の出願書類作成から拒絶理由通知が届いた際の対応まで、完全にトータルサポートしてもらえます。
特に、願書に添付する図面などは専門知識がなければ作成するのに手間も時間もかかる難しいものですが、弁理士が知識や経験を活かして審査に通りやすい正確な書類を作成してくれます。
また、審査完了後の登録手続きまで責任をもってサポートしてくれるので、意匠登録の出願時には欠かすことのできない頼りになる存在です。
意匠登録に強い弁理士を探すならミツモアで
大変手間のかかる意匠登録の出願ですが、意匠に強い弁理士を探すならミツモアが便利です。ミツモアでは一回依頼を出すことで、無料で複数の弁理士から見積もりをもらえるので探す手間がかかりません。
また、実績や口コミなども記載された顔の見えるプロから、依頼する弁理士を探せることも安心できる要素の一つです。
もちろん、弁理士に依頼することで費用は発生しますが、難しい出願書類の作成から登録手続きまでサポートしてもらえることは大きなメリットになります。
また、意匠登録が完了した後も権利侵害の問題などが発生する可能性もあり、そのようなときには頼りになる専門家の存在が何よりも心強いものです。
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