「意匠って何?デザインとどう違うの?」
自社製品の形状を保護できる意匠権ですが、デザインとの厳密な違いを説明するのは難しいのではないでしょうか。
本記事では、意匠の厳密な意味を具体例も交えつつ解説します!
意匠の意味は?デザインとの厳密な違いを解説
新しい商品を開発し、商品を独占的に製造・販売する際、その商品の特徴を財産として守ってくれる「知的財産権」の一つが「意匠権」です。
この「意匠」、通常は聞き慣れない言葉ですが、一体どんな意味なのでしょうか。
「意匠」とは工業上利用できるデザイン
「意匠」を辞書で引くと、意味の一つとして、
「美術工芸品・工業製品などの形・色・模様などをさまざまに工夫すること。また、その結果できた装飾。デザイン」(大辞林第三版)
と記載されています。これを見ると、意匠=デザインと考えてしまいますが、知的財産権としての「意匠」とは「意匠法」で明確に規定されています。
「この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」(意匠法第2条)
つまり、「意匠」とは、物の形や色、模様など、「モノのデザイン」なのです。これは、意匠法が、商品のデザインが、売り上げ等を左右する重要なものであることを認め、それを保護しようという目的で設立されたことによります。
デザインと意匠の厳密な違い
「意匠」がモノのデザインであるならば、「著作権」でも保護できるのではないか、と思うかもしれません。確かに「意匠」もデザインの1つであり、「デザイン」の中の1つの分野が「意匠」と考えてよいでしょう。
意匠権を取得する際の「意匠」の重要な条件の1つに「工業上利用できること」があります。そして工業で利用するためには「形状や色・模様に関するもの」「量産できる」の2点を満たす必要があるのです。
また、紙に書いた絵やイラストなどは「意匠」ではなく「デザイン」です。しかし、そのイラストを活用して商品が生産されると、その絵やイラストは「意匠」になります。
少々分かりづらいかもしれませんが、工業上の量産を前提としたデザインが意匠、芸術的に創作された作品がデザイン、と理解してください。
意匠登録とは
特徴のある「意匠」を独占的に使用する権利を「意匠権」といい、それを登録する制度が「意匠登録」です。
意匠登録されている商品は身近にたくさんありますが、具体的に、どのような物の、どんなところが「意匠」になっているのでしょうか。
登録されている意匠については、特許庁のデータベースから検索できるようになっています。図案なども見られるので、どんな点が意匠として認められたのかがわかります。
登録意匠の例① シャープのディスプレイ型メガネ
たとえば、シャープ株式会社が申請している「ディスプレイ型メガネ」。これは形状を意匠としたもので、半透明型ディスプレイを備えたメガネ型の頭部装着型画像表示機として出願されています。意匠の部分はレンズ部分にスクリーン部と透明部がある点です。それらをメガネに組み込んだ点が、意匠登録として登録されています。
登録意匠の具体例② 花王の頭皮マッサージブラシ
もう一つ事例を見てみましょう。花王株式会社が「頭皮洗浄具」として意匠登録している、頭皮マッサージができる洗浄ブラシです。
同じような頭皮洗浄ブラシは他社にもあります。どれも形状は似ていますが、花王が意匠登録しているのは、ブラシの部分の形状です。
外側にあるブラシの部分の形を工夫し、その部分を意匠登録しています。このように商品の一部のデザインを意匠登録することを「部分意匠」と呼びます。
意匠権を守るなら意匠登録を!
新しい商品を考え、商品化する際には、せっかくのアイデアやデザインを守りたいと思うものです。そんなとき、その権利を守ってくれるのが意匠権なのですが、そのためには、特許庁に申請し、許可を得なければなりません。意匠登録をすることで、どんな権利が保護され、どんなメリットがあるのでしょうか。
意匠権が守ってくれるもの
意匠権では、商品の意匠の以下の内容が保護対象です。
- 物品の形状の意匠
- 物品の形状と模様が結合した意匠
- 物品の形状と色彩が結合した意匠
- 物品の形状と模様と色彩が結合した意匠
保護される意匠の範囲は、発売される正式デザインだけではありません。工業用のデザインは、完成されるまでに、多くのデザイン画が作られます。
そのため、制作段階で生まれた意匠を「関連する意匠」として登録することもできます。これを「関連意匠制度」と呼び、模倣デザインを制限できるようになっています。
意匠登録で与えられる権利
意匠登録を申請し、許可されると、以下のような権利が取得できます。
- 独占排他権
意匠を独占的に使用できる権利です。他の人が同じ意匠で製品の生産を排除できます。もし、他社が申し出れば、生産を許諾することもできます。意匠権の存続期間は25年で、更新はできません。25年以降は登録された意匠は開放され、誰でも使用できるようになります。 - 差止請求権
登録した意匠と同じデザインや、似たデザインの商品を無断で製造された場合、その商品の製造、販売を差し止められる権利です。故意の模倣ではなかったとしても、製造・販売をやめるよう請求できます。さらに、すでに製造されている商品があれば、その破棄や製造設備の除去も請求できるのです。 - 損害賠償請求権
意匠権の侵害がわかった場合、過去にさかのぼって賠償請求できる権利です。3年の時効はありますが、過去の損害についても賠償請求できるようになります。 - 名誉回復措置請求権
意匠権が侵害され、質が悪い模倣品が出回った場合、正規品の信用も損なわれてしまいまう。その場合、模倣品であったことを含めて対外的に広く情報発信し、名誉回復のための行動をとってもらうことができます。
具体的には全国にテレビCMを流す、新聞に謝罪広告を掲載するなどです。
意匠登録と商標登録、著作権の違い
意匠登録と同じく、デザインに関する知的財産権には「商標登録権」や「著作権」があります。それぞれ、保護される範囲や、条件等に違いがあります。
意匠権 | 商標権 | 著作権 | |
---|---|---|---|
保護対象 | 工業製品のデザインを保護 | 会社名、商品名、サービス名などを含むマークを保護 | 美術作品、文化作品としてのデザインを保護 |
対象 | 産できる工業製品の形状、色、模様などのデザイン。使って役に立つ物のデザイン | 商品パッケージにマークとして表示する文字、図形、記号、マーク。ブランドをイメージづけるデザイン | 絵画、著作物など、楽しむもの |
権利の発生 | 登録申請し許可されたら発生 | 登録申請し許可されたら発生 | 著作物を生み出したときに発生 |
条件 | 新規性・創造の非容易性が求められ、既存のデザインは原則登録できない | 既存の物でも登録可能、組み合わせなどで同じ文字列でも登録できる | 特になし |
模倣の認定 | 偶然に同じデザインを創作しても意匠権侵害になる | 偶然に同じデザインを創作しても商標権侵害になる | 偶然同じデザインを創作しても著作権侵害にならない |
存続期間 | 25年(更新はできない) | 10年、更新登録が可能(10年ごと) | 著作者の死後70年 |
たとえば、新しいキャラクターをデザインした場合、そのキャラクターをデザイナーが絵にした時点で「著作権」が発生します。
それを商品名など共にマークにし、商品などにつけた場合「商標登録」になり、そのキャラクターの形状の商品を製造する場合は「意匠登録」になります。
また、模倣の認定の部分も重要です。作成した意匠に「デザイン」として著作権があると考えていても、「実は著作権では保護できなかった」ということは権利侵害訴訟でよく起こっている問題です。
実用品全体のデザインは著作権では保護されないので、商品デザインとして意匠登録する必要があります。
また、最近では「デザイン特許(デザインパテント)」という言葉も聞かれるようになりました。
これは海外での「意匠登録」のことです。メイド・イン・ジャパンの質の高さが世界で注目されるようになり、海外で日本製品の模倣品が製造されることも増えています。
どこの国でも、意匠登録は先願主義。先に模倣品が意匠登録してしまったら、その国での模倣品製造は差し止めることができません。
海外での模倣品や粗悪品製造の影響を受けないよう、海外での「デザインパテント」の申請も考えておきましょう。
意匠登録したほうが良いケース
意匠権が認められる意匠は、以下の通りです。
- 申請する意匠に「新規性」がある。
- 簡単には思いつかない「創作非容易性」を持っている。
これらの条件を満たし、デザインがその商品の個性となり、差別化できる場合に意匠登録したほうがいいでしょう。
たとえば、自動車や服、アクセサリーのデザインのほか、パッケージの形状なども、それによって、商品の個性が発揮できるのであれば、模倣商品を防ぐためにも、意匠権で保護しておきましょう。
商品のデザイン自体がビジネスの成否を左右する場合は、意匠登録を検討しましょう。
意匠登録の方法
実際に意匠登録を行うには、以下の手順で行います。
- 事前調査で登録したい意匠が既に使用されていないか調べる
- 意匠登録出願の願書を提出する
- 審査の過程で補正命令や拒絶理由通知が届いたら手続補正書等を提出し対応する
- 意匠登録が認められたら登録料を納付
- 「設定登録」で意匠権が発生
詳しくは、関連記事「意匠登録とは!?出願から登録までの流れを徹底的に解説!!」もご参照ください。
意匠登録は弁理士におまかせ
他社と差別化するために有用な「意匠登録」。でも、商品の製造や販売ルートの確立などの業務を行いながら、申請書類を作成することはできるのでしょうか。
先願主義の意匠登録では、少しでも早い申請が重要です。そんな時に心強い味方になってくれるのが、知的財産権のプロである「弁理士」です。
意匠の保護は弁理士に依頼を
弁理士とは、特許・実用新案・意匠・商標などの知的財産の専門家。申請に関する相談だけでなく、書類作成や代理での出願手続きも行ってくれる、唯一の国家資格者です。
意匠登録の申請では、必要な図面の作成や登録につながりやすい書類の作成方法など、これまでやったことのない作業がたくさんあるはず。
適切な出願書類が準備できなければ、登録が遅れるだけでなく登録自体が拒否されることも。そこで弁理士であれば、豊富な経験を生かしてスピーディに出願書類を作成してくれます。
また、登録後にどのように権利を運用するかを見据えた申請の仕方も提案してくれます。新しい技術を使用している商品については、本当に意匠登録だけでよいのか、模倣を防ぐためにはどこまで、どのように保護したらいいのかなど、後々問題が起きないように考慮した上での申請ができるのです。
さらに、海外申請をどうするかなど、知的財産の最新情報をもとに、適切なアドバイスもしてくれるのも、弁理士ならではです。
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