この記事でわかること

  • 業界平均の年間利用率は30〜40%。「使ってほしい人ほど使わない」の構造的な要因
  • 導入後ではなく「導入時」に決まる、利用率95%超の運用設計の正体
  • 月1万円の昇給と、月1万円分の福利厚生。経済合理性が高いのはどちらか
株式会社ベネフィット・ワン 松田浩次氏

株式会社ベネフィット・ワン 常務執行役員・松田浩次氏。2001年の入社から25年、今も1日6〜7件の営業に立つ

ミツモアの調査では、中小企業の若手の83%が「福利厚生が充実していれば、基本給が上がらなくても辞めない」と回答した。賃上げ圧力が続く中、福利厚生の戦略的な位置づけは年々重みを増している。

一方、現場には「使ってほしい人ほど使わない」という慢性的なジレンマがある。業界平均では年間を通じて一度も使わない従業員が過半数を超えており、「導入はしたが使われない」という声は、規模を問わず人事・総務担当者から繰り返し聞かれる。

この差はどこから生まれるのか。ミツモア編集部は、ベネフィット・ワン常務執行役員の松田浩次氏に取材を行った。語ってもらったのは、利用率の差は「導入後の運用努力」ではなく、コンテンツ設計と組織体制という導入時の構造で大きく決まる、という業界の構造的な事実だった。

なぜ「導入したのに使われない」が起き続けるのか

福利厚生サービスは、これまで旅行・フィットネス・テーマパーク・宿泊といった「非日常」のメニューを軸に発展してきた。週末や長期休暇のレジャー需要を取り込む設計だ。しかしこの設計には、構造的な弱点があると松田氏は指摘する。

従来の福利厚生サービスは、旅行やフィットネス、テーマパークといった『非日常』のメニューが中心でした。使う人は何度も使うけれど、興味がない人はまったく触れない。ここで二極化が起きてしまう

同社の集計によれば、業界平均でユニークユーザーベースの年間利用率は30〜40%にとどまる。残り60%は数年に1度しか使わないか、契約期間中に一度も使わない層だ。HR担当者にとって、「使ってほしい人ほど使わない」というジレンマが慢性的に存在してきた構図である。

世代やライフスタイルによる利用偏在も大きい。子育て世代、介護に直面するミドル層、独身の若手、シニア層では求めるメニューが大きく異なるため、特定カテゴリーに重心を置く設計では誰かが取り残される。一部の従業員ばかりが恩恵を受け、他の層は「自分には関係のない制度」と感じる構図が、世代間の不公平感の温床となってきた。

ベネフィット・ワンはこの問題に対し、全カテゴリーを網羅する複合型ポータルという立ち位置で長年事業を続けてきた。松田氏は自社のポジションをこう整理する。

企業の人事担当者様の視点に立つと、従業員のニーズは千差万別です。全員のライフスタイルに対応できるワンパッケージのサービスは、制度設計として非常に合理的なんです

1996年創業のベネフィット・ワンは、2024年5月に第一生命ホールディングス(現・第一ライフグループ)の完全子会社となった、業界最大手の一社である。会員数1,350万人、契約団体21,600以上を抱え、中央省庁の約92%、プライム市場上場企業の62%を顧客基盤に持つ。ただ、業界が抱える「使われない」という構造課題は、規模では解けないというのが松田氏の現状認識だ。

会員1,350万人、中央省庁92%。
業界最大手の顧客ベース

会員数

1,350万人

全サービス
合計

契約団体

21,600

企業・団体
導入数

中央省庁

92%

国の行政拠点での
カバー率

プライム市場

62%

上場企業での
カバー率

※ 2026年4月時点の概数

※ 福利厚生、CRMおよびパーソナルの合計会員数。

※ カバー率は取材時点の同社実績ベース

業界平均を超える利用率を出してきた背景には、創業以来貫いてきた一つの判断基準がある。「全員のライフスタイルに対応できるワンパッケージ」を作るために、コスト効率が悪くても切り捨てないものは何か。その答えが、地方メニューの徹底開拓だった。

大手企業の従業員には、東京・大阪・福岡・名古屋の都市部だけでなく、地方の工場や拠点で働く層もいる。その従業員が喜ばなければ、本当の福利厚生にはならない。地方のメニューを増やすことは、コスト効率だけで見れば非効率だ。それでもベネフィット・ワンは、そこにこそリソースを割き続ける選択を20数年取ってきた。

地方の開拓や地域間格差の是正にこそ全力を注ぐ。そこにリソースを割くことを『非効率だ』と言い訳にしない。このカルチャーを20数年間貫いてきたことが、いまの結果につながっていると思います

この「全員が使える」という判断基準が、後述する「日常」への市場転換の発想と、利用率95%超を実現する組織体制の土台にもなっている。

「非日常」から「日常」へ、市場の選び直し

ベネフィット・ワンが過去3年ほどで力を入れてきたのが、「日常生活の中で自然に使える」コンテンツへの戦略シフトだ。コンビニ決済、ネット通販、給油、通信費、固定費といった、従業員が「会社の福利厚生」だと意識せずとも毎日触れる支払い接点に、割引や還元を埋め込む設計である。

この方向に舵を切った背景を、松田氏はあえて自社の弱みから説明する。

正直に言うと、うちは『中途半端』なんです。飲食ならグルメサイト、ネット購入ならAmazon、まとめ買いならコストコと、各業界のトッププレーヤーはその分野に特化して突き抜けた強みを持っています。弊社は全カテゴリーを網羅する複合型ポータルですから、個別のカテゴリーで比べると、専門サービスの深さには敵わない部分がある

専門サービスとの個別比較で勝てない部分があるからこそ、「全員が日常で使える」ことに賭ける。これが業界最大手の選んだ、市場の選び直しだった。

「日常」へのシフトを支える優待ラインアップ

Netflix

最大15%還元

月額視聴料金の15%分のべネポをプレゼント

コミックシーモア

最大30%OFF

コミックシーモア図書券(コードタイプ)が30%OFF

NewsPicks

最大24%OFF

プレミアム年間が一般価格より大幅割引

日経電子版

最大10%OFF

初月無料 + 10%OFFでビジネス情報をお得に

カフェ専用電子マネー

最大8%OFF

カフェで使える電子マネーがいつでも割引

QUOカードPay

最大3.6%OFF

加盟のコンビニやドラッグストアで使える!

Amazon ギフトカード

最大2.5%OFF

数億種の商品・サービスに使えるギフトカード

トクエネでんき等

最大5%OFF

電気代などの固定費も毎月割引!

※ 還元率はメニューや条件によって異なります。予告なく変更となる場合があります。

具体的な仕組みは、コンビニ・ネット通販・給油など日常的な支払い手段への割引埋め込みだ。ベネフィット・ワンでは1万円分のQUOカードPayが9,640円で購入でき、コンビニでのお支払いに購入したQUOカードPayを利用することでお得にお買い物ができる。Amazon ギフトカードは2.5%割引、ガソリンも特別価格で給油可能だ。電気・通信といった固定費の優待もラインアップに含まれる。

同社によれば、ある導入企業の担当者からは「意識的に活用している社員は、年間の支出を20万円以上も抑えられている」という報告が寄せられているという。また、アプリをたまに覗く程度でも、年間7万〜8万円程度は無理なく節約できる水準だと松田氏は説明する。

この戦略の本質は、福利厚生を「特別な日のためのご褒美」から、「日常の支払い行動の延長」に置き換えた点にある。

『会社の福利厚生を使いましょう』という呼びかけは要りません。『毎日コンビニに寄る方、必見』『ふるさと納税をされている方、もっとお得にできます』。普段の支払い方を少し変えるだけでいいんです

業界全体でも近年は日常系コンテンツへの拡張が進んでいるが、コンテンツの厚みには各社の差があるのが現状だ。日常系コンテンツの拡充により、世代や役職を問わず利用接点を作れるようになり、特定層に偏りがちだった従来型の利用構造が変わりつつあるという。

なぜ「日常」にベットしたのか。
利用率を変えた、市場の選び直し

従来の福利厚生サービス

非日常

旅行 / フィットネス / テーマパーク

二極化
  • 使う人は何度も使う
  • 興味がない人は一度も使わない
  • 告知しても行動が変わらない
  • 利用率は30〜40%で頭打ち

ベネフィット・ワンの市場

日常

コンビニ決済 / ネット通販 / 給油

全員が自然に使う
  • 全員が日常的に使える
  • 意識せずに自然と使える
  • 普段の支払い方を変えるだけ
  • 利用率は80〜95%超に届く

利用率の数字の差は明確だ。業界平均30〜40%に対し、Netflix付きプランやポイント(べネポ)付与プランなどの付加サービスを導入した企業では、年間利用率が最低でも80%、しっかり投資した企業では95%を下回ることがほぼないという。

この差を生む要因は2つに整理できる。1つは前述の日常コンテンツの厚み、もう1つが、企業の人事担当者と「どのプランでどこに投資するか」を設計段階から伴走できる体制の有無だ。

利用率は『導入後の頑張り』だけでなく、導入時のプラン設計で大きく左右されるんです

業界平均「30〜40%」から、
ベネフィット・ワン「95%超」へ

業界平均

60%は数年に1回、
あるいは一度も使わない

30〜40%

付加プラン導入

Netflix・べネポ等の
付加サービスを追加

80%

プラン設計から伴走

しっかり投資いただいた
プレミアム導入ケース

95%超

※ 業界平均はユニークユーザーベースの年間利用率。自社数字は取材時点の導入企業実績ベース。

利用率は「運用努力」ではなく「導入時の設計」で決まる

ベネフィット・ワンの運用設計の根底には、福利厚生という商材についての一つの哲学がある。

福利厚生は形のない商品です。だからこそ、導入した企業が『これを自社の武器にするんだ』と主体的に活用してくださらない限り、効果は出ません。逆に『入れたけど別に』と放置されると、あっという間に形骸化します

ベネフィット・ワンにとって最も重要な指標は、契約数でも会員数でもなく、「この制度をうちの会社の成長に絶対に活かす」と覚悟を持って使ってくれている企業が何社あるか、という。形のない商材だからこそ、ベンダーは『お客様のせいにしない』運用を徹底し、顧客側にも『主体的に活かす』覚悟を求める。この双方向の前提が、業界平均を覆す利用率の出発点になっている。

福利厚生サービスは「導入してから利用促進キャンペーンを打って広める」というイメージが強い。しかし松田氏の見立てはその逆だ。プランそのものが日常接点を持つ設計になっているか、企業の人事担当者と設計段階から伴走できているか。この2点で利用率の大半が決まるという。

この「導入時設計」を組織として担保するため、ベネフィット・ワンが整えているのが営業組織の分離だ。新規契約を取る営業部隊と、契約後のクライアントサポートを担う専門スペシャリスト部隊を組織上で明確に分け、評価制度も別にしている。福利厚生業界に限らずBtoB SaaSで近年共通する「カスタマーサクセス」の専任化と同じ流れだが、ベネフィット・ワンでは契約初期の設計フェーズから両部隊が連携する体制を取る。

松田浩次氏

取材に応じる松田氏。自社の弱みや改善余地まで率直に語った

営業マンはどうしても『契約するまで』にスイッチが入りがちですが、私たちは『契約してからがスイッチオン』だと考えています。その温度差がギャップを生まないよう、仕組みで担保しています

松田氏が営業メンバーに繰り返し伝えているのが、もう一つの原則だ。「お客様が利用されない原因は、すべてベネフィット・ワンにある」。担当者が非協力的だから、PC普及率が低い会社だから、と外部要因を挙げ始めた瞬間、改善は止まる、という考え方である。

この原則を運用に落とし込むツールとして、ベネフィット・ワンは各クライアントごとに約300通りの角度から利用実績を分析できる仕組みを整備している。「なぜ使われていないか、何を試すべきか」をデータベースに基づいてトライアンドエラーで提案する形だ。もっとも、松田氏自身も「正直、思い描くほどスムーズにはいきません。だからこそ地道にやり続けるしかない」と率直に認める。

導入企業からのギャップ申告は珍しくない。「従業員の90%が使うと思っていたのに70%にとどまっている」「育児・介護・健康のカテゴリーに使ってほしいのにレジャー系に偏っている」など、松田氏の言葉を借りれば「ギャップのない企業様がないと言っていいほど」、ズレは日常的に発生する。サービス業ゆえに完璧はあり得ず、運用設計の質と修正速度が問われ続ける構造である。

なお、導入が見送られるケースについては、「合わない」よりも「タイミングの問題」の方が多いと松田氏は整理する。同業他社のベースアップ動向で「今年は福利厚生に回す予算がない」と先送りされる事例だ。賃上げと福利厚生は予算上競合関係になるため、給与と福利厚生のハイブリッド活用の有効性が理解されていても、単年度では給与側に振れる構造がある。

松田浩次氏

給与改善と福利厚生のハイブリッド戦略について語る松田氏

給与1万円と福利厚生1万円、投資効率はどちらが高いか

福利厚生領域では近年、若手向けにUI/UXを磨いたスタートアップ系の新興サービスが増え、一部カテゴリーのコンテンツ深度では特化型が大手より優れているケースもある。松田氏自身、競合との関係をこう率直に整理する。

スタートアップの新興企業で、若い世代に人気のコンテンツを集めてスマートなアプリを作っているところがたくさんあります。UXの洗練さ、一部カテゴリーのコンテンツの深さでは、正直、我々より優れた競合はいます。全ての部分で勝っているとは思っていません

ただ松田氏は、UI/UXは利用率を上げるための「手段」であり、企業が福利厚生サービスに本当に求めているのは利用率そのものではない、と整理する。

たとえば「飲食カテゴリーだけが突き抜けて利用率が高い」というケース。それが正解なら、飲食専門のサービスと直接契約すれば済む話です。企業が我々のようなパートナーに期待しているのは、利用率の『その先』にあるもの

「その先」とは、福利厚生・健康管理・自己啓発・報酬といった、現在バラバラに管理されている人事データを統合し、経営層が一目で把握できるようにすることだ。同氏が描く具体例は、ある社員の健康診断結果が3年連続で悪化し、ストレスチェックの数値も低下しているにもかかわらず、福利厚生は使われていない、といった兆候を一つのダッシュボード上で見つけられる仕組み。給与改善だけでは届かない「人を大切にする」経営の実装が、複合型ポータルだから可能になるという主張である。

この観点から見ると、福利厚生サービスへの投資は、単なる従業員還元ではなく、採用力・離職防止・健康投資・エンゲージメント向上を一括で底上げする人事戦略の起点として位置づけ直せる。利用率は手段に過ぎず、本質は従業員の継続的な関わりが生み出す人材データと、それを経営判断につなげる統合視点にある、というのが同社の主張だ。

また、賃上げ圧力が続く中、企業の経営層・人事担当者が直面しているのが、追加原資をどう配分するかという問題だ。給与と福利厚生では、同じ1万円を投じてもROIに大きな差が生まれる。ベネフィット・ワンは両者の経済合理性を以下のように整理する。

「最後の1万円」を何に使うか。
同じ予算でも、届く実感はこれだけ違う

Case A

月額1万円の昇給で還元

企業トータル支出

¥12,000/月

法定福利費を含むため
1万円に上乗せが発生

税・社保に消える分

¥5,000/月

従業員に届かない差額

従業員の手取り増加

¥7,000/月

実感できるのはここだけ

VS

Case B

月額1万円を福利厚生で還元

企業トータル支出

¥10,000/月

損金計上で経費扱い
社保追加負担なし

日常節約コンテンツへ

ドラッグストア20%割引、飲食店10%割引など

電子マネー・Amazon ギフトカード・給油 等

従業員の年間支出抑制

¥70,000〜/年

アプリを時々覗く程度でも

同じ「最後の1万円」でも、給与は税・社保で差額が消えるのに対し、 福利厚生は経費化と日常節約コンテンツの組み合わせで、従業員の実感リターンが跳ね上がる。 だからこそ、給与と福利厚生の"ハイブリッド活用"が投資効率を最大化する。

月額1万円の昇給を実施する場合、法定福利費を含めた企業のトータル支出は約11,500〜12,000円となる。一方、従業員の手取り増加は税金・社会保険料を引いた後で7,000円程度。企業が約12,000円を投じても、従業員の実感は7,000円にとどまり、差額の約5,000円は税・社保に消える構造だ。

同じ1万円を福利厚生費として支出すれば、会社は経費扱い(損金計上)にできる。従業員側は前述の日常節約コンテンツを通じて、年間7万〜8万円の支出抑制効果を得られるというのがベネフィット・ワンの整理である。給与改善と福利厚生のハイブリッドで還元した方が、会社・従業員双方の投資効率が高くなる、という主張だ。

契約の8割は中小企業。
グループシナジーで加速する展開規模

中小企業比率

8割以上

契約団体のうち、従業員300名以下が占める比率

第一生命グループ(現・第一ライフグループ)参画

35,000

第一ライフグループの営業職員が、中小企業経営者に直接提案

新規契約 年間ペース

5,000

従来1,000社/年から、2026年は5倍に拡大見込み

※ 数値は同社発表ベース。2026年は見込み値

「ベネフィット・ワン=大企業向け」というイメージは強いが、実態は逆だ。契約団体のうち8割以上が従業員300名以下の中小企業である。1996年の創業時、「中小企業の福利厚生は一社ではできないから、生活協同組合的な相互扶助の仕組みでやろう」という発想を起点としており、中小企業向け展開はもともと事業の出発点でもあった。

この中小企業展開が近年加速している背景は2つあると、松田氏は説明する。1つは、テレビCMやエレベーター広告などのマーケティング投資を3年継続し、効率的なリード獲得経路を確立したこと。もう1つが、2024年5月の第一生命ホールディングス(現・第一ライフグループ)完全子会社化だ。

第一生命グループ(現・第一ライフグループ)参画の業界的な意味は大きい。全国約35,000人の第一ライフグループ営業職員がベネフィット・ワンのパンフレットを持って中小企業の経営者に直接提案するリーチに加え、地域別のメニュー開発でもシナジーが効き始めている。たとえば山梨県の中小企業が入会した場合、山梨で使えるメニューがなければ意味がない。第一ライフグループの地域営業網が、地元で使えるメニューの開発まで担う体制が整いつつあるという。

結果として、新規契約は以前の年間1,000社ペースから、2026年は5,000社に達する見込みだという。福利厚生サービス市場の中小企業レイヤーが、グループシナジーによって急速に開拓されている構図である。

「使うだけで進化する」人事施策のインフラへ

福利厚生領域では、健康管理(健診・ストレスチェック)、自己啓発(eラーニング)、報酬といった隣接データとの統合が業界の中期テーマになりつつある。ベネフィット・ワンが描く方向性は、この市場の流れに沿いつつ、より具体的な従業員体験の進化に踏み込む。

松田氏は、サービス進化の具体例として、以下のようなシナリオを紹介してくれた。

たとえば転勤が決まったとき。引っ越し業者の手配から各種手続きまで、言葉でシステムに伝えるだけでパッと完了する。そこに会社の人事規定も組み込まれていて『そのやり方はうちの会社の規定では対象外ですよ』と自動でガイドしてくれる。気づいたらベネフィット・ワンが進化していて、使っているだけで従業員が自然と新しい情報をキャッチアップできている。そんな世界を、本気で作りたい

これは現時点では「決意表明」に近い構想だが、創業以来25年貫いてきた「コスト効率では非効率でも、地方も全員も切り捨てない」というカルチャーの延長線上に置かれている。従業員一人ひとりの暮らしに寄り添う粒度で進化を続けることが、結果として企業の人事施策のインフラになるという発想である。

5年後・10年後の業界の姿について、松田氏自身は意外なほど慎重な姿勢を見せる。ベネフィット・ワンのコールセンターは、かつて申し込みの95%が電話だったが、現在は電話比率がわずか5%にまで逆転した。サービスチャネルも顧客接点も、想定を超えるスピードで動く前提で考える必要があるという。

業界全体の評価軸は、利用率という従来指標から、健康・成長・エンゲージメントを束ねた「人的資本ROI」へと静かに移りつつある。25年現場で「使われ続ける制度」の条件を磨き続けてきた既存大手が、この変化のなかで何を選び、何を捨てないのか。今回の取材で見えたのは、その判断基準の輪郭だった。

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Company Profile

株式会社ベネフィット・ワン

「良いものをより安くより便利に サービスの流通創造を通して人々に感動と喜びを提供しよう」を企業理念に掲げ、総合福利厚生サービス「ベネフィット・ステーション」を中核事業として展開。レジャー・グルメ・ショッピング・育児・介護・eラーニングなど140万件以上のメニューを会員限定の優待価格で提供。2024年5月に第一生命ホールディングス(現・第一ライフグループ)の完全子会社となり、全国約35,000人の第一ライフグループ営業職員網を通じた中小企業への展開を加速している。

設立
1996年3月
資本金
15億27百万円(2025年3月末)
従業員数
1,312名(2025年3月末)
代表者
代表取締役会長兼社長 松田清人
本社
東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー37階